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9.第二王子の訪問
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私がエリトン侯爵家の屋敷に戻ってから程なくして、イルドラ殿下が訪ねて来た。
彼には、シャルメラ嬢に関することを調べてもらっている。エリトン侯爵家の方でネメルナ嬢の方面について色々と調べているのだが、それよりも早く何かがわかったようだ。
「リルティア嬢、どうやら兄上とシャルメラ嬢の関係はまだ続いているようだ」
「……そうなのですか?」
「ああ、確証が掴めたという訳ではないが……シャルメラ嬢の行動などから考えると、その可能性が高そうだ」
イルドラ殿下は、呆れたような顔をしていた。
それはそうだろう。アヴェルド殿下は、私と婚約しながらシャルメラ嬢と関係を持っている所か、ネメルナ嬢とも関係を持っている。本当にどうしようもない人であるとしか言いようがない。
「まったく、兄上は愚か者だ。浮気なんて、なんとも馬鹿なことを……それに兄上は、平然と嘘をつく。俺にシャルメラ嬢とは清い関係で、リルティア嬢との婚約を機に別れると言っていたというのに、全てが真っ赤な嘘だ」
「まあ、本人としては清い関係という可能性もあるのでしょうけれどね……」
アヴェルド殿下は、浮気性で嘘つきだ。それは最早、疑いようのない事実である。
イルドラ殿下は、そのことにかなり怒っているようだ。弟である彼にとっては、私以上に辛いことなのかもしれない。
「当然のことながら、兄上との婚約は考え直すのか?」
「そうですね……そうなると思います。そもそもの話として、この事実が公表された場合、アヴェルド殿下の立場も怪しくなるでしょうし」
「まあ、そうだろうな。流石の父上も、こんなことをした兄上を王位を譲りはしないだろう。エリトン侯爵家にとっても、大きな打撃になるか」
イルドラ殿下は、私のこれからのことについて心配してくれているようだった。
その気遣いは、とてもありがたい。ただ、こちらとしては少々胸が痛くなってくる。
アヴェルド殿下と婚約破棄した私が求めるべき新たなる婚約者、それが誰なのかは明白だ。私は今、そういったやましい考えを持って、イルドラ殿下と接している。
それがなんというか、彼に対して申し訳ない。純粋に善意から心配してくれているであろう彼に対して、私は笑顔を向けられそうにない。
「それで、ネメルナ嬢の方はどうなんだ?」
「動向を探っていますが、今の所特に動きはありませんね……ですが、こちらの方から仕掛けてみたいと思っています」
「仕掛ける?」
「ええ、今回の件について、エリトン侯爵家もできるだけ上手く立ち回らなければなりません。そのための準備を始めようと思っています」
イルドラ殿下が話題を変えてくれたのは、私にとって幸いなことだった。
私は余計な考えを振り払いつつ、イルドラ殿下との話に応じるのだった。
彼には、シャルメラ嬢に関することを調べてもらっている。エリトン侯爵家の方でネメルナ嬢の方面について色々と調べているのだが、それよりも早く何かがわかったようだ。
「リルティア嬢、どうやら兄上とシャルメラ嬢の関係はまだ続いているようだ」
「……そうなのですか?」
「ああ、確証が掴めたという訳ではないが……シャルメラ嬢の行動などから考えると、その可能性が高そうだ」
イルドラ殿下は、呆れたような顔をしていた。
それはそうだろう。アヴェルド殿下は、私と婚約しながらシャルメラ嬢と関係を持っている所か、ネメルナ嬢とも関係を持っている。本当にどうしようもない人であるとしか言いようがない。
「まったく、兄上は愚か者だ。浮気なんて、なんとも馬鹿なことを……それに兄上は、平然と嘘をつく。俺にシャルメラ嬢とは清い関係で、リルティア嬢との婚約を機に別れると言っていたというのに、全てが真っ赤な嘘だ」
「まあ、本人としては清い関係という可能性もあるのでしょうけれどね……」
アヴェルド殿下は、浮気性で嘘つきだ。それは最早、疑いようのない事実である。
イルドラ殿下は、そのことにかなり怒っているようだ。弟である彼にとっては、私以上に辛いことなのかもしれない。
「当然のことながら、兄上との婚約は考え直すのか?」
「そうですね……そうなると思います。そもそもの話として、この事実が公表された場合、アヴェルド殿下の立場も怪しくなるでしょうし」
「まあ、そうだろうな。流石の父上も、こんなことをした兄上を王位を譲りはしないだろう。エリトン侯爵家にとっても、大きな打撃になるか」
イルドラ殿下は、私のこれからのことについて心配してくれているようだった。
その気遣いは、とてもありがたい。ただ、こちらとしては少々胸が痛くなってくる。
アヴェルド殿下と婚約破棄した私が求めるべき新たなる婚約者、それが誰なのかは明白だ。私は今、そういったやましい考えを持って、イルドラ殿下と接している。
それがなんというか、彼に対して申し訳ない。純粋に善意から心配してくれているであろう彼に対して、私は笑顔を向けられそうにない。
「それで、ネメルナ嬢の方はどうなんだ?」
「動向を探っていますが、今の所特に動きはありませんね……ですが、こちらの方から仕掛けてみたいと思っています」
「仕掛ける?」
「ええ、今回の件について、エリトン侯爵家もできるだけ上手く立ち回らなければなりません。そのための準備を始めようと思っています」
イルドラ殿下が話題を変えてくれたのは、私にとって幸いなことだった。
私は余計な考えを振り払いつつ、イルドラ殿下との話に応じるのだった。
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