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8.心配する兄

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「いや、すまないな。こんな時間に訪ねてしまって。お前も疲れているだろうし、迷惑かもしれないとも思ったのだけれど」
「いいえお兄様、別に構いませんよ。どうして訪ねて来たのかも、大体わかっていますし」

 私のこれからのことについて、結局明確なことが決まった訳ではなかった。
 お父様も色々と悩んでいるらしく、結論を出すまでにはもう少し時間がかかりそうだ。
 そんな風に話が落ち着いた日の就寝前、兄であるラドルフが私の部屋を訪ねて来た。何故訪ねて来たかは明白だ。例の件について、お父様から聞いたのだろう。

「話が早くて助かるが……色々と大変だったようだね?」
「大変……そうですね。正直困っています。これからどうするべきか、悩んでもいます」
「ああ、父上も頭を抱えていたよ」

 お兄様は、苦笑いを浮かべていた。
 その少し気まずそうな笑みに、私も思わず笑ってしまう。
 今はそんな状況だ。もう笑うことしかできないくらいに、私達は打撃を受けている。

「まあしかし、父上は聡明な方だ。きっと悪いようにはしないだろう。早ければ明日にでも、良い方針を思いつくはずだ」
「ええ、お父様のことは信頼していますから、大丈夫だとは思っています。しかし、どうしても不安になってしまうものでして……」
「大丈夫だ。いざとなったら、この僕がお前の面倒くらい見てやるさ。お前のことはラフェシアも気に入っているし、特に問題はないだろう」
「お兄様達の邪魔をしたいとは思いませんよ」

 お兄様の少し冗談めかした言葉に、私の心は安らいだ。
 多分お兄様なら、本当に私の面倒くらい見てくれるだろう。婚約者であるラフェシア様も、きっと歓迎してくれる。そうなったら、割と楽しい生活が送れそうだ。
 ただ、そうなりたいと思えるという訳でもない。私はエリトン侯爵家の一員だ。できれば、家のために役に立つという本懐を遂げたい。

「でもなんというか、お兄様達のような関係性は理想的なのでしょうね」
「理想的? 僕達がか?」
「ええ、愛し合っている訳ですからね。政略結婚でありながらも、確かな愛があるというのは、素晴らしいことであるように思えます」
「まあ僕達の場合は、偶々家柄が同等の人を好きになって、その結果として縁談がまとまることになった訳だけれど……」

 お兄様とラフェシア様は、恋愛感情から縁談が決まったタイプだ。
 お互いに家は同じ侯爵だったということもあって、話はスムーズに決まった。
 できることなら、私もそのような婚約がしたかったものだ。そういう婚約であったなら、今回のような面倒なことにはならなかっただろうし。
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