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3.怒る王太子
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「……君はいつもそうだな?」
「はい?」
「君はいつも合理的だ。冷たいくらいにね」
私から言葉を受けていたアヴェルド殿下は、少しの沈黙を挟んだ後にそう言ってきた。
彼はどうやら、かなり怒っているようだ。浮気の話をされたのが、そんなに嫌だったということだろうか。
しかしそれは、はっきりと言って逆ギレでしかない。そもそも浮気したのが、悪いと思うのだが。
「確かに僕は、ネメルナと関係を持っている。彼女とは君との婚約が決まるずっと前から付き合いがあった。もちろん、恋愛的な意味での付き合いだ」
アヴェルド殿下は、こちらを少し軽蔑するような瞳で見つめてきた。
浮気したのは彼であるというのに、どうして私がそのような目を向けられるのかは、正直よくわからない。
ただ納得はできなくても、理解することはできる。私もアヴェルド殿下が言う程合理的な人間ではない。彼の怒りも、理解しているつもりだ。
「ネメルナは素敵な女性だったよ。ただ、彼女はオーバル子爵家の令嬢だ。父上はそんな彼女を僕の婚約者としては認めてくれないだろう。だから僕は、婚約の話などを出そうとは思っていなかった。それは彼女だって、理解していると思っていた」
国王様は寛大な方ではあるが、次期国王であるアヴェルド殿下の妻には、それなりの格を求めていることだろう。貴族であっても、最低でも伯爵家くらいまでしか認めないはずだ。
そういう意味で、ネメルナ嬢はアヴェルド殿下と婚約することができなかった。それはともすれば、悲しいことかもしれない。
ただ、それは私には関係がないことである。そういった恋愛的な情などは、今回の件では捨てて欲しい所である。
「アヴェルド殿下、私はあなたとネメルナ嬢の関係を容認しても構わないとは思っています。ただ、妾であるなら妾として扱ってください。それを彼女にも納得させてください。そうすることができないというなら、手を切るしかありません」
「……そんな簡単な話ではないんだよ」
「それなら、国王様に談判するしかないでしょうね。私との婚約を取り消して、ネメルナ嬢と婚約できるように説得すれば良いではありませんか」
「それができないから、困っているんだ!」
私は、アヴェルド殿下の中途半端な態度に少しイラついていた。
彼女を妾とすることもできない、関係を断ち切ることができない、正妻として迎え入れることもできない。先程から彼は、そうやってはぐらかしてばかりだ。
王太子であるならば、もっと決断力を持ってもらいたいものである。何も決められない彼に、王位など渡して大丈夫なのだろうか。私は少し不安になっていた。
「はい?」
「君はいつも合理的だ。冷たいくらいにね」
私から言葉を受けていたアヴェルド殿下は、少しの沈黙を挟んだ後にそう言ってきた。
彼はどうやら、かなり怒っているようだ。浮気の話をされたのが、そんなに嫌だったということだろうか。
しかしそれは、はっきりと言って逆ギレでしかない。そもそも浮気したのが、悪いと思うのだが。
「確かに僕は、ネメルナと関係を持っている。彼女とは君との婚約が決まるずっと前から付き合いがあった。もちろん、恋愛的な意味での付き合いだ」
アヴェルド殿下は、こちらを少し軽蔑するような瞳で見つめてきた。
浮気したのは彼であるというのに、どうして私がそのような目を向けられるのかは、正直よくわからない。
ただ納得はできなくても、理解することはできる。私もアヴェルド殿下が言う程合理的な人間ではない。彼の怒りも、理解しているつもりだ。
「ネメルナは素敵な女性だったよ。ただ、彼女はオーバル子爵家の令嬢だ。父上はそんな彼女を僕の婚約者としては認めてくれないだろう。だから僕は、婚約の話などを出そうとは思っていなかった。それは彼女だって、理解していると思っていた」
国王様は寛大な方ではあるが、次期国王であるアヴェルド殿下の妻には、それなりの格を求めていることだろう。貴族であっても、最低でも伯爵家くらいまでしか認めないはずだ。
そういう意味で、ネメルナ嬢はアヴェルド殿下と婚約することができなかった。それはともすれば、悲しいことかもしれない。
ただ、それは私には関係がないことである。そういった恋愛的な情などは、今回の件では捨てて欲しい所である。
「アヴェルド殿下、私はあなたとネメルナ嬢の関係を容認しても構わないとは思っています。ただ、妾であるなら妾として扱ってください。それを彼女にも納得させてください。そうすることができないというなら、手を切るしかありません」
「……そんな簡単な話ではないんだよ」
「それなら、国王様に談判するしかないでしょうね。私との婚約を取り消して、ネメルナ嬢と婚約できるように説得すれば良いではありませんか」
「それができないから、困っているんだ!」
私は、アヴェルド殿下の中途半端な態度に少しイラついていた。
彼女を妾とすることもできない、関係を断ち切ることができない、正妻として迎え入れることもできない。先程から彼は、そうやってはぐらかしてばかりだ。
王太子であるならば、もっと決断力を持ってもらいたいものである。何も決められない彼に、王位など渡して大丈夫なのだろうか。私は少し不安になっていた。
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