2 / 80
2.淡々とした言葉
しおりを挟む
「アヴェルド殿下、少しよろしいでしょうか?」
「リルティア? どうかしたのかい?」
ネメルナ嬢との会話が終わったアヴェルド殿下の元を、私は訪ねていた。
彼はいつも通りの紳士的な笑みを浮かべながら、私を快く受け入れてくれている。
それだけ見ていれば、好青年にしか見えない。だが、実際は婚約者がいる身でありながら、他の女性と関係を持っている。
なんというか、あの一瞬の出来事で彼に対する信頼というものは、なくなっていた。
「ネメルナ嬢という令嬢のことを聞きたいのです」
「……何?」
回りくどいことは嫌いだったため、私はすぐに本題を切り出すことにした。
それに対して、アヴェルド殿下は目を丸めて驚いている。私の存在など、まったく気付いていなかったということだろう。
しかしそれはなんとも、愚かな考え方である。私がいる王城で浮気相手と会ったりしたら、バレる可能性だってあるだろう。
「……僕には何のことだか」
「隠さなくても結構ですよ」
アヴェルド殿下は、私の質問を誤魔化そうとした。
それは、当然といえば当然のことではある。しかし、同時に無駄なことでもあるだろう。私が名前を出した時点で、誤魔化せる段階などは終わっているのだから。
「別に、浮気を咎めようと思っている訳ではないのです。まあもちろん良いことではありませんが、しかしあなたがどうしてもそうしたいというなら、許容しても良いとは思っています。問題は浮気相手にどこまで入れ込んでいるか、ということです」
「な、何?」
「その浮気相手を、私よりも優先されたら困ると言っているんです。例えば、彼女との間に子供を作るなどという愚行などを、犯すつもりではありませんか?」
私はあくまで、淡々と言葉を述べていく。
ここで求められているのは、きっとそういう会話であるだろう。
ただアヴェルド殿下は、明らかに気を悪くしているように見える。これでも私は、結構譲歩している方だと思うのだが。
「私達の婚約というものは、王家とエリトン侯爵家との間の契約であるということを忘れないでいただきたい所です。私達には、責任があるのですよ?」
「……そんなことは、わかっているとも」
「失礼ながら、わかっているなら他の令嬢との関係なんて断ち切るはずです。私との婚約が成立する前から付き合いがあったのかもしれませんが、遊びなら遊びと割り切れるようにしてください。それが私の求めていることです」
私は言葉を発しながら、アヴェルド殿下の様子を伺っていた。
彼は、私に対して鋭い視線を向けている。私の言うことが、気に食わないということだろう。
やはり彼は、本気ということなのだろうか。私を排除し、あのネメルナ嬢と結ばれたい。そう思っているのかもしれない。
「リルティア? どうかしたのかい?」
ネメルナ嬢との会話が終わったアヴェルド殿下の元を、私は訪ねていた。
彼はいつも通りの紳士的な笑みを浮かべながら、私を快く受け入れてくれている。
それだけ見ていれば、好青年にしか見えない。だが、実際は婚約者がいる身でありながら、他の女性と関係を持っている。
なんというか、あの一瞬の出来事で彼に対する信頼というものは、なくなっていた。
「ネメルナ嬢という令嬢のことを聞きたいのです」
「……何?」
回りくどいことは嫌いだったため、私はすぐに本題を切り出すことにした。
それに対して、アヴェルド殿下は目を丸めて驚いている。私の存在など、まったく気付いていなかったということだろう。
しかしそれはなんとも、愚かな考え方である。私がいる王城で浮気相手と会ったりしたら、バレる可能性だってあるだろう。
「……僕には何のことだか」
「隠さなくても結構ですよ」
アヴェルド殿下は、私の質問を誤魔化そうとした。
それは、当然といえば当然のことではある。しかし、同時に無駄なことでもあるだろう。私が名前を出した時点で、誤魔化せる段階などは終わっているのだから。
「別に、浮気を咎めようと思っている訳ではないのです。まあもちろん良いことではありませんが、しかしあなたがどうしてもそうしたいというなら、許容しても良いとは思っています。問題は浮気相手にどこまで入れ込んでいるか、ということです」
「な、何?」
「その浮気相手を、私よりも優先されたら困ると言っているんです。例えば、彼女との間に子供を作るなどという愚行などを、犯すつもりではありませんか?」
私はあくまで、淡々と言葉を述べていく。
ここで求められているのは、きっとそういう会話であるだろう。
ただアヴェルド殿下は、明らかに気を悪くしているように見える。これでも私は、結構譲歩している方だと思うのだが。
「私達の婚約というものは、王家とエリトン侯爵家との間の契約であるということを忘れないでいただきたい所です。私達には、責任があるのですよ?」
「……そんなことは、わかっているとも」
「失礼ながら、わかっているなら他の令嬢との関係なんて断ち切るはずです。私との婚約が成立する前から付き合いがあったのかもしれませんが、遊びなら遊びと割り切れるようにしてください。それが私の求めていることです」
私は言葉を発しながら、アヴェルド殿下の様子を伺っていた。
彼は、私に対して鋭い視線を向けている。私の言うことが、気に食わないということだろう。
やはり彼は、本気ということなのだろうか。私を排除し、あのネメルナ嬢と結ばれたい。そう思っているのかもしれない。
933
お気に入りに追加
2,175
あなたにおすすめの小説
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
不遇幼女テイマーに召喚された古竜、未開の秘境で幼女のパパになる。
メルメア
ファンタジー
2000年の眠りから叩き起こされ、召喚主の元に現れた古竜のギル。
しかしそこにいたのは、巨大な竜の姿を見て泣きわめく幼女だった。
テイムの才能がないからと住む場所を追われた幼女エリン。
もふもふのうさぎをテイムしようとしたはずが、どういうわけか古竜を召喚してしまったらしい。
父親も母親もいない孤児のエリンに、自分の同じような境遇を重ねたギルは、テイマーである彼女を支えることを誓う。
しかしエリンが求めたのは、テイマーと召喚竜ではなくパパと娘の関係だった。
おまけに親子のいる場所は未開の秘境だし、噂を聞きつけた貴族やエリンを追放したテイマーが関わってくるし、挙句の果てにはギルと因縁のある竜までやってくるし……。
かわいい娘の笑顔とのんびりスローライフを守るため!
どういうわけか秘境の王になったり、邪魔する敵を排除したりしながら、ギルは慣れないパパさん業に奮闘するのだった。
ハルシャギク 禁じられた遊び
あおみなみ
恋愛
1970年代半ば、F県片山市。
少し遠くの街からやってきた6歳の千尋は、
タイミングが悪く家の近所の幼稚園に入れなかったこともあり、
うまく友達ができなかった。
いつものようにひとりで砂場で遊んでいると、
2歳年上の「ユウ」と名乗る、みすぼらしい男の子に声をかけられる。
ユウは5歳年上の兄と父親の3人で暮らしていたが、
兄は手癖が悪く、父親は暴力団員ではないかといううわさがあり、
ユウ自身もあまり評判のいい子供ではなかった。
ユウは千尋のことを「チビ」と呼び、妹のようにかわいがっていたが、
2人のとある「遊び」が千尋の家族に知られ…。
アルファポリスでホクホク計画~実録・投稿インセンティブで稼ぐ☆ 初書籍発売中 ☆第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞(22年12月16205)
天田れおぽん
エッセイ・ノンフィクション
~ これは、投稿インセンティブを稼ぎながら10万文字かける人を目指す戦いの記録である ~
アルファポリスでお小遣いを稼ぐと決めた私がやったこと、感じたことを綴ったエッセイ
文章を書いているんだから、自分の文章で稼いだお金で本が買いたい。
投稿インセンティブを稼ぎたい。
ついでに長編書ける人になりたい。
10万文字が目安なのは分かるけど、なかなか10万文字が書けない。
そんな私がアルファポリスでやったこと、感じたことを綴ったエッセイです。
。o○。o○゚・*:.。. .。.:*・゜○o。○o。゚・*:.。. .。.:*・゜。o○。o○゚・*:.。.
初書籍「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」が、レジーナブックスさまより発売中です。
月戸先生による可愛く美しいイラストと共にお楽しみいただけます。
清楚系イケオジ辺境伯アレクサンドロ(笑)と、頑張り屋さんの悪役令嬢(?)クラウディアの物語。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
。o○。o○゚・*:.。. .。.:*・゜○o。○o。゚・*:.。. .。.:*・゜。o○。o○゚・*:.。.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる