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1.王太子の浮気
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アルドラ王国の王太子アヴェルド殿下の婚約者として選ばれたことは、名誉なことであるといえるだろう。
といっても、それは私の力で成し遂げたことではない。偉大なる父、ルダール・エリトン侯爵の努力の賜物だ。
数ある貴族の中で、国王様から最も信頼を得た。そんな父のことを、私は尊敬している。
だからこそ、この婚約は成功させなければならないものだと思っていた。
次期国王となるアヴェルド殿下の妻になるということは、要するに次期王妃となることだ。しっかりと務めなければならない。
そんな風に考えていた私は、今となってはお笑いだったといえるだろう。
アヴェルド殿下の姿を視界の端に捉えながら、私はそのようなことを思っていた。
「ネメルナ、君と会えることは僕も嬉しく思っているよ。しかしだ、王城まで訪ねられると困ってしまう。僕と君との関係は、決して公表できるものではないということは、君だってわかっているはずだ」
「申し訳ありません、アヴェルド殿下。しかし、私はまだ今回のことには納得していません。どうしてあのような、何のとりえもない女がアヴェルド殿下の婚約者になるのですか? あなたの婚約者に相応しいのは、私のような者です」
「気持ちはわかるが、どうか落ち着いてくれ」
アヴェルド殿下は、見知らぬ令嬢と親しそうに話をしていた。
その話の内容は、私のことであるだろう。ネメルナ嬢からすれば、私のことが気に食わないということらしい。
自らが嫉妬されるような立場であるということは、考えるまでもないことだ。そのことについて、思う所などはない。
問題なのは、彼女の主張にアヴェルド殿下が同意している点だ。
彼は、正当なる婚約者である私のことを軽んじているということだろうか。それなら私にとっては、大きな問題だ。
浮気については、百歩譲っていいとすることもできる。
王太子としての役目を忘れないというなら、多少は見逃しても良い。
しかし彼女に必要以上に入れ込んでいるとなると、話は別だ。いざという時になってから、彼女の方を優先されたりしたら、溜まったものではない。
「まずはアヴェルド殿下の真意を聞かなければならないわね……」
この場に出て行って彼を糾弾することは可能だ。
しかし、それで王家との婚約が壊れてしまったら大変である。私はあくまでも慎重に、ことにあたらなければならない。
故にここは、とりあえず成り行きを見守っておくことにした。こうして私は、アヴェルド殿下とネメルナ嬢が親しそうに話すのを見守るのだった。
といっても、それは私の力で成し遂げたことではない。偉大なる父、ルダール・エリトン侯爵の努力の賜物だ。
数ある貴族の中で、国王様から最も信頼を得た。そんな父のことを、私は尊敬している。
だからこそ、この婚約は成功させなければならないものだと思っていた。
次期国王となるアヴェルド殿下の妻になるということは、要するに次期王妃となることだ。しっかりと務めなければならない。
そんな風に考えていた私は、今となってはお笑いだったといえるだろう。
アヴェルド殿下の姿を視界の端に捉えながら、私はそのようなことを思っていた。
「ネメルナ、君と会えることは僕も嬉しく思っているよ。しかしだ、王城まで訪ねられると困ってしまう。僕と君との関係は、決して公表できるものではないということは、君だってわかっているはずだ」
「申し訳ありません、アヴェルド殿下。しかし、私はまだ今回のことには納得していません。どうしてあのような、何のとりえもない女がアヴェルド殿下の婚約者になるのですか? あなたの婚約者に相応しいのは、私のような者です」
「気持ちはわかるが、どうか落ち着いてくれ」
アヴェルド殿下は、見知らぬ令嬢と親しそうに話をしていた。
その話の内容は、私のことであるだろう。ネメルナ嬢からすれば、私のことが気に食わないということらしい。
自らが嫉妬されるような立場であるということは、考えるまでもないことだ。そのことについて、思う所などはない。
問題なのは、彼女の主張にアヴェルド殿下が同意している点だ。
彼は、正当なる婚約者である私のことを軽んじているということだろうか。それなら私にとっては、大きな問題だ。
浮気については、百歩譲っていいとすることもできる。
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しかし彼女に必要以上に入れ込んでいるとなると、話は別だ。いざという時になってから、彼女の方を優先されたりしたら、溜まったものではない。
「まずはアヴェルド殿下の真意を聞かなければならないわね……」
この場に出て行って彼を糾弾することは可能だ。
しかし、それで王家との婚約が壊れてしまったら大変である。私はあくまでも慎重に、ことにあたらなければならない。
故にここは、とりあえず成り行きを見守っておくことにした。こうして私は、アヴェルド殿下とネメルナ嬢が親しそうに話すのを見守るのだった。
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