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16.当然の報い

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「この私が、どうしてこのような扱いを受けなければならないのだ!」
「まったくです。私達が何をしたというのです!」

 王国の前で、一組の男女が声を荒げていた。
 それを国王は、鷹のように鋭い目で見据えている。

 その視線に、一組の男女は後退った。
 国王の覇気に気圧されて、二人は怯えているのだ。

「ランベルト侯爵、それに侯爵夫人、お主達は自分が何をしたのかまだわかっておらぬのか」

 国王の低い声が、玉座の間に響き渡った。
 その声にランベルト侯爵夫妻は、さらに後退ることになった。

 しかし二人には、既に逃げ場などない。
 いくら後ろに下がっても、国王は逃がしてなどくれないのだ。

「アリシアに対する数々の狼藉、それらは決して許されるものではない。お主達にはその罪を償ってもらう」
「ど、どうしてこんな小娘如きのために国王様が……」
「意味がわかりません。どうして私達が……」

 ランベルト侯爵夫妻は、何故自分達が国王の逆鱗に触れたのか、完全に理解している訳ではなかった。
 突然呼び出されて、断罪される。二人にとっては訳がわからない状況であるだろう。

 ただそれは、身から出た錆である。
 丁重に扱うまでしなくとも、最低限アリシアを尊重していたなら、このようなことにはならなかったのだ。

 国王の怒りを買ったランベルト侯爵家は、最早終わりである。
 それを悟って、夫妻は悔しそうに項垂れるのだった。

「……まさか、こんなことになるなんて思っていませんでした」
「ああ、そうだろうな。俺もこんな幕切れは予想していなかった。しかし、これはこれ以上ない程の報いであるだろう。ランベルト侯爵夫妻は、ほぼ全ての権力を失ったようなものだ」
「ええ、こういう言い方をするのは良くないのかもしれませんが、良かったと思ってしまいます」
「いや、君はそう思う権利があるさ。誰も君を責めはしない。むしろ、君は優しすぎるくらいだ」

 一連のやり取りを、ルバイトとアリシアは物陰からずっと見ていた。
 アリシアにとって、ランベルト侯爵家は恨むべき相手である。故に彼女の心は、冷たく微笑んでいた。

 ただアリシアは、そのような自分が少しだけ嫌だった。
 いくら仇敵であるといっても、人の不幸を喜びたくはなかったのである。

「……所で、ランベルト侯爵家が没落するとなると、私はどうなるのでしょうか?」
「む?」
「ルバイト様からすれば、私との関係を維持する必要はありませんよね?」
「ああなるほど、そういうことか……」

 そこでアリシアは、気になっていることをルバイトに聞いてみた。
 アリシアとルバイトとの関係は、ランベルト侯爵家によって決められたものだ。その前提が変わった以上、二人の関係も変わらざるを得ないものなのである。

「確かにそうなのかもしれないな……ただ俺は、君を手放したくはない」
「え? それって……」
「ああ、君の優しさに俺は惹かれている。できれば改めて妻に迎えたいと思っているのだが、どうだろうか?」

 ルバイトはアリシアの目を真っ直ぐに見ながら、手を伸ばしてきた。
 その彼らしい真摯な言葉に、アリシアは笑みを浮かべる。彼女の答えは、既に決まっていたのだ。

「……私でよろしければ」
「ああ、ありがとう」

 アリシアはゆっくりとルバイトの手を取った。
 こうして二人は、新しい関係性を築いたのだった。
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