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68.辛かった過去

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「貴族や王族なんかで魔力が高い子が生まれれば、それはもてはやされる対象になるのだと思います。でも、平民は違うんです。特に、村という閉鎖的な空間で暮らす平民にとって、特別はいいことではなかった……」

 私は、ゆっくりと呟くようにそう言い放っていた。
 この話をするのは、思えば随分と久し振りである。そのため、私も少し苦しくなってしまっているようだ。

「私と母は、村八分のような状態になりました。村というのは、基本的には助け合っていく場所ですから、そんな状態になると大変なんです。大変過ぎて……母は、早くに亡くなりました」
「……そうでしたか。すみません、私は、嫌なことを聞いてしまったようですね……」
「いえ、気にしないでください」

 私の過去は、決して明るいものではない。だが、それは他人からはわからないことである。だから、聞いてきた彼を責めようとは当然思わない。

「その後、天涯孤独になった私は、その高い魔力を活かして生きていくしかないと思いました。そこで、聖女になることを思いついたのです」
「……生きるためというのは、そういうことなのですね?」
「ええ、そうです」

 私は、生きるために聖女になることを決意した。母を失って失意のどん底にいた私は、生きるためにもがいたのである。
 帰る場所もない私にとって、聖女になることは数少ない生きるための道だった。そのため、私は必死になっていたのだ。

「幸いなことに、聖女というものは実力が重視される役職でした。魔法の才能があった私は、その素質を持っていると認められたのです」
「何か、試験のようなものでもあったんですか?」
「あ、そうですね、それを説明しなければいけません。ズウェール王国では、まず聖女の候補を選別するんです。そこで残った者達に教育をして、改めて試験して聖女を決める。そういう流れだったんです」
「なるほど……」

 私は、聖女候補の試験にまず合格した。それによって、とりあえず王都で暮らすことができるようになったのだ。
 あの村から離れて生活ができる。それだけでも、私にとっては幸せなことだった。
 だが、それでも生きるためには聖女になるしかないと思っていた。別にそんなことはなかったはずなのだが、あの時の私は視野が狭かったのかもしれない。

「それからも、私は必死で聖女を目指しました。多分、他の候補者とは気合が違ったと思います。その結果、私は聖女になりました。これで、やっと安心できる。そう思っていたんですけど……」
「……つまり、ルルメアさんはそのハングリー精神で、聖女の座を勝ち取ったという訳ですか」
「そうですね……そんな所だと思います」

 マルギアスさんの言葉に、私はゆっくりと頷いた。ハングリー精神、それはあの時の私にはぴったりの言葉である。
 その精神だけで、私は聖女になった。しかし、その先も明るい未来は待っていなかった。
 考えてみれば、私の人生というのは波乱の連続である。明るい未来に辿り着くのは、一体いつになるのだろうか。
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