「君の代わりはいくらでもいる」と言われたので、聖女をやめました。それで国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

４５．各々の考え（モブ視点）

　ルルメアとの会話を終えたドルギアは、トゥーリンの定食屋で食事を摂ってから、王都に来ていた。
　思っていたよりも早く事態が動いたため、それをケルディスに伝えに行くことにしたのである。

「ドルギア、随分と早い帰りでしたね……」
「ええ、自分でもそう思っていますよ」

　帰って来たドルギアに対して、ケルディスはとても驚いていた。それは、そうだろう。まさか、グランゼンの町に留まるように命令した日に帰ってくるなんて、彼も思っていなかったことだろう。
　だが、それだけ事態が早く動いたということである。そう思いながら、ケルディスはドルギアと向き合う。

「それで、何があったのですか？」
「実は、件の聖女疑惑のルルメアと話しましてね」
「話した……それは、何か重要な事柄を、ということですか？」
「彼女はやはり聖女のようです」
「そうですか……」

　ドルギアの言葉に、ケルディスは驚いた。
　もちろん、彼女がズウェール王国の聖女である可能性は高いと思っていた。だが、本当にそうだったこととそれがこんなにも早くに判明したことに、彼は驚いたのである。
　しかし、それが判明したのは彼にとって好機だった。彼女が聖女なら、計画を進めることができるからだ。

「なるほど、彼女がズウェール王国の聖女であるというなら、改めて彼女と接触を計りましょうか」
「そうですね」

　ケルディスは、ゆっくりと立ち上がった。
　こうして、彼らは再びルルメアと話をするため、グランゼンに向かうのだった。



◇◇◇



　ナーゼスは悩んでいた。それは、ドルギアと話してから、ルルメアの様子がおかしくなったからだ。
　一体彼女に何があったのか、それがナーゼスにはわからない。だが、いいことがなかったことだけは確かだ。

「なるほど……そんなことがあったのね」
「ああ、疲れているだけではなかったと思うんだ」
「でも、ドルギアさんはいい人よ。彼が彼女を傷つけるようなことを言うとは思わないのだけど……」
「それは……そうかもしれないが」

　相談したトゥーリンの言葉に、ナーゼスはゆっくりと頷いた。
　彼も、ドルギアがいい人であることは知っている。そのため、姉の言葉には納得できるのだ。
　だが、それでもルルメアは暗い顔をしていた。それがどういうことなのか、彼は改めて考える。

「おっさんの……仕事絡みかもしれない」
「ドルギアさんの仕事……騎士の仕事絡みということ？」
「ああ、それなら、おっさんだって嫌なことを言うしかないだろう？」
「それはそうだけど……ルルメアさんが、騎士に何か言われるようなことをしているということ？」
「いや、それは……」

　トゥーリンの言葉に、ナーゼスは怯んだ。いい考えだと思ったが、彼女の言う通りだと思ってしまったのだ。
　こうして、ナーゼスは新たな店員のおかしな様子に悩み続けるのだった。