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21.家族との再会
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私は、王城の客室にいた。
向かいにはラーバスさんが座っている。彼は何も言わない。それはきっと、今私が置かれている状況に関係しているのだろう。
「む……」
「ラーバスさん?」
「足音がします。それも、とても焦ったような足音が……」
「え? あっ……」
ラーバスさんが言葉を発したと思った瞬間、部屋の戸が勢いよく開かれた。
そして部屋の中に、一人の少女が入ってきた。その少女は、部屋の中を見渡して、私を見つけて視線を止めた。
私は、ゆっくりと立ち上がって、その少女に歩み寄る。すると少女の方から、私の胸に飛び込んできた。
「お姉様!」
「メルリナ……そんなに慌てて、どうしたのかしら?」
「だって、だってお姉様は……」
私の胸の中で、妹は震えていた。目には涙を浮かべている。
そんな表情をされてしまうと、こちらまで泣きたくなってくる。ただそれは、ぐっとこらえた。ここで私が泣いてしまったら、さらに妹を悲しませることになるからだ。
「……ミルティア」
「……久し振りね、こうして顔を合わせるのは」
「あっ……」
しかし私の我慢は、すぐに限界に達してしまった。
メルリナに続いて、客室の中に私の両親が入ってきたからだ。
思えば、随分と久し振りに皆の顔を見るような気がする。エガード侯爵家の屋敷で暮らすようになってから、家には一度も帰っていなかった。
別に帰ることができなかったという訳では、なかったはずだ。
暴力的だった頃のオルドス様でも、交渉すればそれくらいできたはずである。その後に待っているひどいことさえ受け入れれば、彼はむしろ嬉々として許したかもしれない。
だが私の中には、家に帰るという選択肢はなかった。それはきっと、一度帰ったらもう二度とエガード侯爵家の屋敷には戻れないと、無意識にわかっていたからなのだろう。
こうして家族の顔を見て、私はそれを理解した。
私はなんとも、弱い人間である。もっと強く気高い女性であると、自負していたはずなのに。
「辛い思いを、させてしまったね。全ては、僕の不徳の致す所だ」
「正確には私達ね。まったく、愚かなものだったわ。あんな婚約に縋りついてしまうなんて」
「いいえ、全ては私が意地を張っていただけなのです。ローヴァン男爵家を守りたかった私のわがままなのです」
お父様とお母様は、私のことをメルリナごと両側から抱きしめてくれた。
その時にはもう、完全に決壊してしまっていた。私の目からは、大粒の涙が溢れ出している。
最早それを止めようとも思わない。私は感情に任せて、年甲斐もなく泣きじゃくるのだった。
向かいにはラーバスさんが座っている。彼は何も言わない。それはきっと、今私が置かれている状況に関係しているのだろう。
「む……」
「ラーバスさん?」
「足音がします。それも、とても焦ったような足音が……」
「え? あっ……」
ラーバスさんが言葉を発したと思った瞬間、部屋の戸が勢いよく開かれた。
そして部屋の中に、一人の少女が入ってきた。その少女は、部屋の中を見渡して、私を見つけて視線を止めた。
私は、ゆっくりと立ち上がって、その少女に歩み寄る。すると少女の方から、私の胸に飛び込んできた。
「お姉様!」
「メルリナ……そんなに慌てて、どうしたのかしら?」
「だって、だってお姉様は……」
私の胸の中で、妹は震えていた。目には涙を浮かべている。
そんな表情をされてしまうと、こちらまで泣きたくなってくる。ただそれは、ぐっとこらえた。ここで私が泣いてしまったら、さらに妹を悲しませることになるからだ。
「……ミルティア」
「……久し振りね、こうして顔を合わせるのは」
「あっ……」
しかし私の我慢は、すぐに限界に達してしまった。
メルリナに続いて、客室の中に私の両親が入ってきたからだ。
思えば、随分と久し振りに皆の顔を見るような気がする。エガード侯爵家の屋敷で暮らすようになってから、家には一度も帰っていなかった。
別に帰ることができなかったという訳では、なかったはずだ。
暴力的だった頃のオルドス様でも、交渉すればそれくらいできたはずである。その後に待っているひどいことさえ受け入れれば、彼はむしろ嬉々として許したかもしれない。
だが私の中には、家に帰るという選択肢はなかった。それはきっと、一度帰ったらもう二度とエガード侯爵家の屋敷には戻れないと、無意識にわかっていたからなのだろう。
こうして家族の顔を見て、私はそれを理解した。
私はなんとも、弱い人間である。もっと強く気高い女性であると、自負していたはずなのに。
「辛い思いを、させてしまったね。全ては、僕の不徳の致す所だ」
「正確には私達ね。まったく、愚かなものだったわ。あんな婚約に縋りついてしまうなんて」
「いいえ、全ては私が意地を張っていただけなのです。ローヴァン男爵家を守りたかった私のわがままなのです」
お父様とお母様は、私のことをメルリナごと両側から抱きしめてくれた。
その時にはもう、完全に決壊してしまっていた。私の目からは、大粒の涙が溢れ出している。
最早それを止めようとも思わない。私は感情に任せて、年甲斐もなく泣きじゃくるのだった。
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