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9.同情的な視線
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「……イルフィだけに話してもらうのは何だから、私の事情についても話そうか?」
「あ、うん。聞いてもいいことなら」
イルフィの話を聞き終えた私は、自分のことを切り出すことにした。
これからも仲良くするために、それは必要なことだろう。というか、私自身も聞いてもらいたかった。イルフィに私のことを、知ってもらいたいと思ったのだ。
「私のお父さんは漁師だったんだけど、嵐にあって帰ってこなかった。行方不明ということになっているけれど、多分助かってはいない」
「そっか……」
「それを聞いて、お母さんは男の人と一緒に家を出て行った。元々、お父さんにも私にも愛情なんてない人だったから」
「なっ……!」
お父さんの話の時には悲しみの表情を浮かべてくれていたイルフィが、お母さんの話を聞いて目を丸くしていた。
彼女の表情からは、怒りが伝わってくる。それが誰に向けた怒りであるかは明白だ。
「何それ、ひどすぎるじゃん」
「うん。まあ、そうなんだよね」
イルフィのストレートな言葉に、私はゆっくりと頷いた。
私の母親が、最低な人間であることは紛れもない事実だ。妻としても母親としても、あの人には良い点なんてない。きっと彼女はこれからも、自分勝手に生きていくだろう。
「でも、元々そういう人だったから、私としてはそんなに驚きはなかったんだけどね……」
「そ、そうなの?」
「私のこともずっと放っとくような人だったし、お父さんの前では多少は見繕っていたけれど、それも結局はお金のためで……まあ、あの人のことを母親だなんて思えないかな」
「……アルティナも色々と大変だったんだね」
イルフィは、私に対して同情的な視線を向けてきていた。
あの町では私も批判される側だったため、そういった視線を受けるのにはまだあまり慣れていない。
ただ、悪い気持ちにはならなかった。そうやって同情してくれるのは、私のことを邪険に扱っていない証拠だからだ。
「でも、大丈夫。これからはシスターエルティリナがお母さんだから」
「お母さん?」
「困ったこととか悩みとかあったら、すぐに相談していいと思う。シスターエルティリナは、すごい人だから、大抵のことは解決してくれると思う」
イルフィは、エルティリナさんのことを笑顔で語っていた。
その笑顔からは、彼女に対する深い信頼が伝わってくる。本当に、シスターのことを母親であると思っているかのようだ。
しかし私は、その点において懐疑的である。私もエルティリナさんのことを母親だと思える日が来るのだろうか。
「あ、うん。聞いてもいいことなら」
イルフィの話を聞き終えた私は、自分のことを切り出すことにした。
これからも仲良くするために、それは必要なことだろう。というか、私自身も聞いてもらいたかった。イルフィに私のことを、知ってもらいたいと思ったのだ。
「私のお父さんは漁師だったんだけど、嵐にあって帰ってこなかった。行方不明ということになっているけれど、多分助かってはいない」
「そっか……」
「それを聞いて、お母さんは男の人と一緒に家を出て行った。元々、お父さんにも私にも愛情なんてない人だったから」
「なっ……!」
お父さんの話の時には悲しみの表情を浮かべてくれていたイルフィが、お母さんの話を聞いて目を丸くしていた。
彼女の表情からは、怒りが伝わってくる。それが誰に向けた怒りであるかは明白だ。
「何それ、ひどすぎるじゃん」
「うん。まあ、そうなんだよね」
イルフィのストレートな言葉に、私はゆっくりと頷いた。
私の母親が、最低な人間であることは紛れもない事実だ。妻としても母親としても、あの人には良い点なんてない。きっと彼女はこれからも、自分勝手に生きていくだろう。
「でも、元々そういう人だったから、私としてはそんなに驚きはなかったんだけどね……」
「そ、そうなの?」
「私のこともずっと放っとくような人だったし、お父さんの前では多少は見繕っていたけれど、それも結局はお金のためで……まあ、あの人のことを母親だなんて思えないかな」
「……アルティナも色々と大変だったんだね」
イルフィは、私に対して同情的な視線を向けてきていた。
あの町では私も批判される側だったため、そういった視線を受けるのにはまだあまり慣れていない。
ただ、悪い気持ちにはならなかった。そうやって同情してくれるのは、私のことを邪険に扱っていない証拠だからだ。
「でも、大丈夫。これからはシスターエルティリナがお母さんだから」
「お母さん?」
「困ったこととか悩みとかあったら、すぐに相談していいと思う。シスターエルティリナは、すごい人だから、大抵のことは解決してくれると思う」
イルフィは、エルティリナさんのことを笑顔で語っていた。
その笑顔からは、彼女に対する深い信頼が伝わってくる。本当に、シスターのことを母親であると思っているかのようだ。
しかし私は、その点において懐疑的である。私もエルティリナさんのことを母親だと思える日が来るのだろうか。
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