家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗

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4.私のお母様

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 当然のことかもしれないが、私にはお母様がいる。
 彼女の名前は、クルミーナ。ゲームでは、父親のアムドラとともにエルミナを虐めていた人物である。
 気が強い人物で、エルミナが多大に影響を受けたと思われる彼女は、こちらの世界ではエルミナを虐めたりしていない。

「エルミナ、おはよう」
「おはようございます、お母様」
「ふふっ……」

 私が朝の挨拶をすると、お母様は笑みを浮かべた。
 その笑みは、慈愛に満ち溢れている。その表情だけで、私への愛が伝わってくるのだ。

 声だけではあったが、ゲームの中の彼女はエルミナに対して刺々しいことを言っていた。
 しかし、今の目の前にいるお母様は口が裂けてもそんなことは言わないだろう。そう思うくらい、彼女は私のことを溺愛しているのだ。

「今日もお父様と会ったのかしら?」
「あ、はい。実はそうなんです」
「あの人は相変わらずのようね……そろそろエルミナも、そういうことを言われたくない年齢だということがわかると思うのだけれど」

 私の言葉に、お母様は苦笑いしていた。
 お母様はお父様と違って、私を過剰に褒めたりしない。
 それは恐らく、私が年頃だとわかっているからなのだろう。

 そういうことは、お父様もわかっているはずだ。
 それなのにあんなことを言ってしまうのは、二人の考え方の違いなのだろうか。

「まあでも、あの人も悪気があるという訳ではないのよ。あなたのことを本当に可愛いと思っているから、あんなことを言ってしまうの。どうか、許してあげて」
「はい。私も、別にお父様のことが嫌いという訳ではないので……」
「そう……それなら良かったわ」

 お母様は、お父様のことを愛しているのだろう。
 その表情から、それが伝わってくる。
 それは、お父様も同じだろう。今までの二人の様子から、それは確信できる。

 ゲームの中で、二人はそのような関係ではなかった。仲が良いとは、言い難い関係だったのである。
 そんな二人の仲が良い。それも、ずれている所だ。

「ねぇ、エルミナ……あなた、何かあったの?」
「え?」
「なんというのかしら……少し雰囲気が変わった気がするのだけれど」

 そこで、お母様はそんなことを言ってきた。
 雰囲気が変わった。それはもしかして、私が前世の記憶を思い出したということが関係しているのだろうか。

「えっと……すみません、よくわかりません」
「そう? そうよね、あなただって成長しているのだから、雰囲気が変わることだって、あるわよね」

 私は自分に何が起こったかを話せなかった。
 前世の記憶。そんなものを持っていると言ったら、お母様が私のことを気味が悪いと思うのではないか。そんな恐怖があったからだ。

 ただ、お母様は、私に何かあったと察しているかもしれない。
 彼女の態度が、そんな風に思えたのだ。
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