家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
1 / 31

プロローグ ゲームでの末路

しおりを挟む
「捜査の為に全生徒の身上書を確認させていただきます」

 野々村が1人で壁新聞を貼り替えていた頃、武藤とまどかは朝礼前の校長室へ訪れていた。

 本来は職員室で作業を行いたかったのだが、武藤ら警察の潜入捜査は一般の教師には知らされていない。下手な騒ぎを誘発するくらいなら、と校長が校長室の使用を許可したのだ。

 今日の2人の服装は昨日までの学校指定の制服ではなく、動きやすさを重視した黒のスーツだった。

 武藤は小脇にノートパソコンを抱え、少しでも動きやすくする為か長い髪をひっつめていた。
 まどかの方はあまり変化は無いが、改造制服を着ていた時よりは若干だが大人っぽく見えるかも知れない。

 やがて学校側から渡された分厚い紙のデータ。500人以上の写真の中から武藤は正確にマジボラの面々の写真だけをり抜いていく。

『名前』『学年』『学級』『住所』を慣れた手付きでノートPCに入力していくまどか。
 その先の行程は警察のデータに紐付けて本人達の補導歴はもちろん、彼女らの家族構成、そして家族の職業等を精査していく。

 武藤が一番懸念としていたのは、魔法少女とヤクザやテロリストといった「反社会的勢力」との結び付きであった。
 武藤自身、普段から暴力団相手の商売をしている為に、彼らの真っ当とは言えないやり口はある程度理解している。

 もし魔法少女らの活動が反社会的思想の元に行われているのであれば、たとえ人助け等の行動にも必ず裏があるはずだ。

 それらを突き止めずに無批判に魔法少女に飛び付く訳にもいかなかったのである。

「ふーん、今ん所ヤバい繋がりは無さそうですねぇ。どの家庭も円満そうな… あ、増田って子は事故で両親を亡くしてるんスねぇ、可愛そう…」

蘭の身上に同情し、悲しそうな顔をするまどか。そしてしんみりムードを堪能する間もなく、

「ガーン!! あの御影イケメンって女の子なのぉ?! ショックぅ~。あ、でもお兄さんがいるみたい! イケメン女子の兄貴ならイケメンですよねぇ、先輩?」

まどかの失望の嘆きと淡い希望が校長室に響き渡る。

「知らないわよ、真面目に仕事しなさいよ! …んで、あの殺人スケバンのデータは出たの?」

「えー? ちょっと待ってくださいよぉ… あれ? この『近藤睦美』って生徒と『土方久子』って生徒は… 変ですねぇ。16年前に地域に転入してきた形跡はありますが、その前の記録が転出元からも出ていません。これは不法入国の外国人の可能性がありますよ…」

『不法入国の外国人か… 最悪そっち方面で任意同行を求めて話を聞いても良い。拒否するようなら逮捕もむ無しだ…』

「そんな事よりこの2人、マジヤベーっすよ! 入学年が15年前と8年前ッス!」

 まどかの驚きに武藤も同調する。とても信じられないが、あのスケバンは15年も高校生をやっていると言うのだ。

「まさか?! どういう事…?」

「事情はわかんねーッスけど、普通に留年を繰り返しているみたいッス。後見人としてアンドレ・カンドレというここの教師の名前が出てます。そしてその教師は魔法奉仕同好会の顧問だそうです。『魔法少女』に『魔法奉仕同好会』… これあーしらかなーり真相に近付いてきたんじゃないスか?」

 捜査の着実な手応えにニヤリとするまどか。武藤もわずかに口元が緩んでいた。

「…しかもこのアンドレとかいう教師も出生国不明ですねぇ。もぉこれまとめて入管(入国管理局)に回した方が良い案件じゃないスか?」

「バカね。国外退去にしちゃったら私らの仕事が終わらないでしょ? まずはその確実に『何かを知っている』カンドレ教諭と話をしないとね… まどか、あんたは芹沢つばめをマークしなさい。昨日みたいな事件が起きると厄介だわ」

 武藤の命令だが、まどかは顔をしかめていた。

「えー? 今日学校の制服持ってきてないッスよぉ? 今から寮に行って服取って帰ってくるまで2時間かかるじゃないですかー」

「そんな事だろうと思って、乗ってきた車にあんたの部屋から持って来た制服積んでるから。さっさと行ってきな」

「ちょっ、あーしのクローゼット勝手に開けたんスか? ドロボーッスよドロボー!」

「うるっさい。マル暴のガサ入れ能力ナメんな。ほらほら行った行った。またつばめあのこに何かあったらお前の責任だよ?」

「ううっ、国家権力のオーボーっス…」

「いや、あんたもその権力側だからね?」

 漫才バトルに負けたまどかはトボトボと駐車場へと向かって行った。

 ☆

「イっケメン、イっケメ~ン♪」
 着替えたまどかが始めに行ったのは「御影詣で」であった。
 これは単に己の欲望を満たしているだけでは無い。御影とつばめは同じクラスであり、御影の近くにいればつばめの監視も困難では無い。
 更に御影の取り巻きの一人としてなら他学級の生徒でも1年C組にいて怪しまれない、という利点もあった。

 角倉まどか、バカっぽく見えても奸智の働く女である。

 やがて放課後になり、つばめが蘭や野々村と合流し、マジボラ部室に入って出てきて更にサッカー見物しながら女子3人でダベって、また揃ってどこかへ行こうとしている。

「会話が聞き取れる位置を取れれば最高だったんだけどねぇ、まぁ尾行ならお手の物だよ…」

 完全に気配を消す事に成功していたまどかは、ひとり密かにほくそ笑んでいた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は王子の溺愛を終わらせない~ヒロイン遭遇で婚約破棄されたくないので、彼と国外に脱出します~

可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。第二王子の婚約者として溺愛されて暮らしていたが、ヒロインが登場。第二王子はヒロインと幼なじみで、シナリオでは真っ先に攻略されてしまう。婚約破棄されて幸せを手放したくない私は、彼に言った。「ハネムーン(国外脱出)したいです」。私の願いなら何でも叶えてくれる彼は、すぐに手際を整えてくれた。幸せなハネムーンを楽しんでいると、ヒロインの影が追ってきて……※ハッピーエンドです※

悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい

恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。 尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。 でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。 新米冒険者として日々奮闘中。 のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。 自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。 王太子はあげるから、私をほっといて~ (旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。 26話で完結 後日談も書いてます。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

この異世界転生の結末は

冬野月子
恋愛
五歳の時に乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したと気付いたアンジェリーヌ。 一体、自分に待ち受けているのはどんな結末なのだろう? ※「小説家になろう」にも投稿しています。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

年下騎士は今日も私に夢中です

紅花うさぎ
恋愛
「ソフィア様、ずっとお慕いしてました。私と結婚していただけませんか?」 どうしたらいいの? 年下イケメン騎士から突然のプロポーズ。 熱い瞳で見つめられるとドキドキがとまらない…… いつの間にか彼に惹かれているけれど、本当に受け入れていいのかしら? いつかやっぱり若い子がいい……って去って行かない? 侯爵令嬢と、彼女に夢中な6つ年下騎士の恋物語です。 ☆「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...