誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗

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20.龍の宣告

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「無駄だ!」

 私の魔力を全て込めた火球に対して、龍は光を放った。
 その光は、泡の周りに障壁を作り出す。その守りをさらに強固なものへと変えたようだ。

「……私はまだ力を持っている。こんなものではない……!」
「ぬうっ……」

 私は、力を漲らせた。
 既に、私の体に魔力は残っていない。
 だが、それでも私は魔力を集中させる。限界を越えるために、私は体にさらに負荷をかけていく。

「これは……」

 その瞬間、私は体の奥の方から魔力が溢れ出してくるのを感じた。
 温かい力が、私の体に漲ってくる。
 私は、その魔力を再び火球に込めた。すると火球は、その大きさを増していく。

「間違いない……これは、大樹の力……母親の力を受け継いでいたというのか?」

 私の火球は、龍の生み出した泡を完全に破壊した。
 ただ、それでも彼の力を上回っている訳ではないらしく、火球もそのまま消えてしまった。

 その様子に、龍はかなり驚いている。
 私の力が、突然膨れ上がったことに、驚きを隠せないようだ。

「……なるほど、それがお前の答えということなのか」
「え?」

 龍は、空を仰いでそのように呟いた。
 それは、私に対する言葉ではない。恐らく、大樹に対する言葉だ。

 そのまま、龍は私の元に下りてきた。
 そして、顔を動かして、私に何かを促してくる。

「乗れ……」
「えっと……」
「もう暴れる気はない。だが、我にも納得いかないことはある。それだけには、付き合ってもらう」
「……わかった」

 龍の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 私は、飛び上って、龍の頭に乗る。とりあえず、落ちないように魔力で体を固定しておく。

「では、行くぞ……」
「わっ……」

 龍は私を乗せたまま、ゆっくりと天に昇っていく。
 エルドー王国の上空に漂う龍は、一度周囲を見渡し、ある場所でその視線を止める。
 そこにあるのは、王城だ。大樹を伐採するという命令を出した張本人がいる場所に、彼は狙いを定めたようだ。

「ぬぅん……」
「これは……」

 龍は、魔力を集中させた。
 その視線を王城の中にいるとある人物に集中させるためだろう。

『見えているぞ……愚かなる人間よ』
『これは、一体……』
『お前の下した命令は、愚かなものだった。我が降り立ったのは、母なる大樹を傷つけた天罰だ……』
『て、天罰……』

 私の頭の中に、龍の声と国王様の声が響いてきた。
 国王様は、かなり怯えているようだ。それは、当たり前のことである。巨大な龍に睨みつけられたら、誰だって怖い。

『……聞け、エルドー王国の国民達よ! 我は、精霊の森の守り神である。お前達が愚かにも大いなる自然を荒らした罰を与えにきた者だ!』
「この声は……」
「な、なんなんだ、一体……」

 続いて、龍はエルドー王国全体に声を届け始めた。
 どうやら、何かしらの考えがあるようだ。

『お前達の行いは愚かなものだった。だが、今回はこの聖女ミレイナに免じて、その過ちを許してやろう……だが、次に同じようなことをした時は容赦しない。この国を火の海に変えると宣言しておこう』

 龍は、その宣告をしてから、再び天に昇り始めた。
 地上の人間達は、この警告をどう受け取っただろうか。そんなことを思いながら、私は龍にしがみついているのだった。
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