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8.辛い陰口

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 私が、自分に対する評価を聞いたのは、強制的な休暇を取らされることになってから、すぐのことだった。

「知っているか? 聖女ミレイナ様が、ご乱心らしい」
「ああ、龍が実在するとか言っているんだろう?」
「そうみたいだ」

 王城の廊下にて、二人の兵士はそんな会話を交わしていた。
 私がすぐ近くいるなんて、彼らはまったくわかっていないようだ。その口調は、明らかに私を馬鹿にしている。

「まあ、昔から思っていたけどさ。やっぱり、あの人は変なんだよな……」
「森で育ったとかなんとか聞いたことがあるけど……それが原因なんじゃないか?」
「ああ、そうかもしれないな……よく言えば神秘的だけど、悪く言えばただの変人だよな」

 彼らは、そんな会話をしながら笑っていた。
 その笑みは、私にとっては少し辛いものだった。

 陰口を叩かれる。その経験は、今までも何度かある。
 だが、誰にも信じられていないという現状でこういう言葉を聞くというのは、中々に心にくるものがあったのだ。

 もしかして、出自によって私は信じられていないのだろうか。
 そんな考えが、頭の中を過ってくる。

「しかし、龍がいるなんて、本当に唐突だよな……一体、どうしたんだろうな?」
「ああ、あれじゃないか。幼少期にさ、おとぎ話とか聞かされていないから、最近知ってその存在を信じるようになったとかじゃないか?」
「ああ、なるほど、それはありそうだな……」

 私が龍の存在を知ったのは、別に最近などではない。
 森にいた頃から、聞いたことがあった。元々知っていたのである。

 そんな風に歪んだ認識をされるというのは、悲しいものだ。
 同時に、怒りも湧いてくる。どうして、私がこんなことを言われなければならないのだろうか。

 私は、確かに森で生まれ育った。
 それによって、人とは少し違う感性を持っているかもしれない。

 だが、それでも、私はこの国のためを思って頑張ってきたはずである。
 それなのに、こんな評価であるというのは、どういうことなのだろうか。

「というか、そもそもどうして森で育ったんだろうな?」
「さあ、本人が言うには、木の下に置かれていたらしいけど……」
「捨てられたということか? でも、どうして、わざわざ精霊の森なんて所に捨てたんだろうな?」
「まあ、人は滅多に寄り付かない場所だし、捨てるには最適だったんじゃないか?」

 兵士達は、私に対してあることないこと好き勝手言っていた。
 その言葉が、私の胸に突き刺さってくる。
 結局の所、このエルドー王国という国は、私というものを受け入れてくれないのかもしれない。私は、彼らの会話にそんなことを思うのだった。
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