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15.とりあえずの避難
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私は、マレイド様にミルドレッド男爵家の屋敷に連れて来てもらっていた。とりあえずの非難場所として、屋敷の一室を貸してもらえることになったのだ。
男爵家の屋敷の一室をとりあえずの避難場所にするのは、なんとも贅沢な話ではある。その提案をしてくれたマレイド様には、感謝の気持ちしかない。
「大叔母様からある程度の話は聞いていましたが、リヴェルト伯爵家は中々にひどい状態であるようですね……」
「そうですね……まあ、当然そういう評価にはなりますよね」
「もちろん、男爵家と伯爵家では色々と事情も異なるでしょうが、同じ貴族の端くれとしては信じられないような判断です」
「はっきりと言って、愚かな選択としか言いようがないと思います」
屋敷への道中、私はマレイド様に事情を説明していた。
彼は今回リヴェルト伯爵家が取った行動について、困惑しているようだった。
それは当然のことである。プレリアの感情に左右されるその判断は、貴族としては間違ったものでしかない。普通に考えれば、意味がわからないものだ。
「といっても、今回は紆余曲折ありましたが、ベレイン伯爵家からの婚約破棄です。内情は知られていませんから、リヴェルト伯爵家はそこまで痛手を負わないのかもしれません」
「ベレイン伯爵家――バルーガ伯爵令息は、それでも婚約を破棄した方が良いと思ったのでしょうね。彼からしてみれば、一刻も早くリヴェルト伯爵家との関係を断ち切りたかったのかもしれません。何かしらの被害を受ける可能性はありますからね」
「多分、そういうことなのだと思います」
バルーガ様は、迅速に判断を下した。それはリヴェルト伯爵家が、いつ不祥事を起こすのかわからなかったからだろう。それによって、ベレイン伯爵家が受ける不評被害を危惧したのだ。
被害を受けないためには、関係を切り捨てるのが一番である。それが例え強引な手であっても――いや、強引な手であるからこそ、関係がないことはむしろ強調されるかもしれない。
その辺りも計算して、バルーガ様は婚約を破棄したのだろうか。それはわからない。ただ明白なのは、彼はリヴェルト伯爵家が何かをやらかすと思っているということだ。
それについては、私も正直異論はない。リヴェルト伯爵は、まず間違いなく何かをやらかす。それはもしかしたら意外と近い将来の話かもしれない。
「……恐らく、マリーサさんがいなくなったことが影響しているのだと思います」
「大叔母様の影響、ですか?」
「ええ、彼女は使用人の中でも古株で、お父様にも意見が言えて、それがある程度通っていました。抑止力とでも言うべきでしょうか。とにかく、マリーサさんがいなくなった今、お父様は暴君です。私を追放したように、何かをするかもしれません」
今回の件で改めてよくわかったことだが、マリーサさんはリヴェルト伯爵家を辛うじて繋ぎ止めてくれていたのだろう。
先代――お祖父様やお祖母様の時代は、まともだったと聞いている。その意思をマリーサさんは、示してくれていたのかもしれない。
だけどお父様は、結局理解することができなかったのだ。そもそもあの人を当主としたことが、間違いだったのかもしれない。
男爵家の屋敷の一室をとりあえずの避難場所にするのは、なんとも贅沢な話ではある。その提案をしてくれたマレイド様には、感謝の気持ちしかない。
「大叔母様からある程度の話は聞いていましたが、リヴェルト伯爵家は中々にひどい状態であるようですね……」
「そうですね……まあ、当然そういう評価にはなりますよね」
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「はっきりと言って、愚かな選択としか言いようがないと思います」
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彼は今回リヴェルト伯爵家が取った行動について、困惑しているようだった。
それは当然のことである。プレリアの感情に左右されるその判断は、貴族としては間違ったものでしかない。普通に考えれば、意味がわからないものだ。
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「多分、そういうことなのだと思います」
バルーガ様は、迅速に判断を下した。それはリヴェルト伯爵家が、いつ不祥事を起こすのかわからなかったからだろう。それによって、ベレイン伯爵家が受ける不評被害を危惧したのだ。
被害を受けないためには、関係を切り捨てるのが一番である。それが例え強引な手であっても――いや、強引な手であるからこそ、関係がないことはむしろ強調されるかもしれない。
その辺りも計算して、バルーガ様は婚約を破棄したのだろうか。それはわからない。ただ明白なのは、彼はリヴェルト伯爵家が何かをやらかすと思っているということだ。
それについては、私も正直異論はない。リヴェルト伯爵は、まず間違いなく何かをやらかす。それはもしかしたら意外と近い将来の話かもしれない。
「……恐らく、マリーサさんがいなくなったことが影響しているのだと思います」
「大叔母様の影響、ですか?」
「ええ、彼女は使用人の中でも古株で、お父様にも意見が言えて、それがある程度通っていました。抑止力とでも言うべきでしょうか。とにかく、マリーサさんがいなくなった今、お父様は暴君です。私を追放したように、何かをするかもしれません」
今回の件で改めてよくわかったことだが、マリーサさんはリヴェルト伯爵家を辛うじて繋ぎ止めてくれていたのだろう。
先代――お祖父様やお祖母様の時代は、まともだったと聞いている。その意思をマリーサさんは、示してくれていたのかもしれない。
だけどお父様は、結局理解することができなかったのだ。そもそもあの人を当主としたことが、間違いだったのかもしれない。
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