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9.妹の恋心
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「プ、プレリア、何を言っているのだ?」
お父様は、プレリアの気持ちに対してひどく動揺しているようだった。
今まで彼女には、浮いた話というものはなかった。それが突然舞い込んできて、父親として揺れているということだろうか。
そんなお父様の様子は気にもせず、プレリアは笑みを浮かべる。それはなんというか、恋に恋する乙女の表情だ。
「お父様、バルーガ様は素敵な方です。初めて見た時から、心惹かれています。きっと彼の方もそうでしょう。これは運命的な何かと言えます」
「う、運命だと……?」
「彼と婚約させてください。お姉様との婚約と入れ替えればいいだけですから、そう難しいことではありませんよね?」
「それは……」
妹からの頼みに、お父様は珍しく苦い顔をしていた。
プレリアを溺愛している彼は、彼女が欲しいものはなんでも迷いなく与えてきた。即答せずに躊躇うのは、もしかしたらこれが初めてなのではないだろうか。
それが父親としての気持ちなのか、それとも伯爵としての判断なのか、それはわからない。ただ明白なのは、お父様が迷っているということだ。
そこで私は、アドミラ様の様子を伺ってみた。
彼女の方は、呆れたような諦めたような微妙な顔をしている。
お父様程ではないが、アドミラ様もプレリアのことは溺愛しているといっていい。故にその願いも、叶えたいということだろうか。
「しかし、お前が嫁ぐということになってしまったら、このリヴェルト伯爵家はどうする? まさか、このネセリアに与える訳にもいくまい」
「……それは、バルーガ様に婿に来てもらえば良いではありませんか。そうだ。私が彼を説得しましょう。私達は愛し合う身であるのですから、わかってもらえるはずです」
「むぅ……」
プレリアの勢いに、お父様は押されているようだった。
彼女は興奮している。故に冷静に判断できていない、という訳でもないだろう。このプレリアは、なんでも自分の望み通りになると思っているので、平時でも同じような案を出していたはずだ。
ただそれは、明らかに無茶な要求である。嫡子を婿にやるなんて、余程のことがない限りあり得ないのだから。
「……仕方ないことか」
しかしお父様は、不穏な言葉を口にした。
まさか本当に、プレリアの案を飲むつもりなのだろうか。これは今まで叶えてきた彼女のわがままとは、趣が異なるというのに。
相手がいる問題であるため、お父様の一存でなんとかなる訳ではない。むしろプレリアの要求を出すことで、関係を悪くして敵を作るだけだ。メリットがなさ過ぎる。
どうやらお父様は、貴族としても三流以下であるようだった。こんな人が当主である限り、リヴェルト伯爵家に繁栄はない。お父様の態度に、私はそんなことを思うのだった。
お父様は、プレリアの気持ちに対してひどく動揺しているようだった。
今まで彼女には、浮いた話というものはなかった。それが突然舞い込んできて、父親として揺れているということだろうか。
そんなお父様の様子は気にもせず、プレリアは笑みを浮かべる。それはなんというか、恋に恋する乙女の表情だ。
「お父様、バルーガ様は素敵な方です。初めて見た時から、心惹かれています。きっと彼の方もそうでしょう。これは運命的な何かと言えます」
「う、運命だと……?」
「彼と婚約させてください。お姉様との婚約と入れ替えればいいだけですから、そう難しいことではありませんよね?」
「それは……」
妹からの頼みに、お父様は珍しく苦い顔をしていた。
プレリアを溺愛している彼は、彼女が欲しいものはなんでも迷いなく与えてきた。即答せずに躊躇うのは、もしかしたらこれが初めてなのではないだろうか。
それが父親としての気持ちなのか、それとも伯爵としての判断なのか、それはわからない。ただ明白なのは、お父様が迷っているということだ。
そこで私は、アドミラ様の様子を伺ってみた。
彼女の方は、呆れたような諦めたような微妙な顔をしている。
お父様程ではないが、アドミラ様もプレリアのことは溺愛しているといっていい。故にその願いも、叶えたいということだろうか。
「しかし、お前が嫁ぐということになってしまったら、このリヴェルト伯爵家はどうする? まさか、このネセリアに与える訳にもいくまい」
「……それは、バルーガ様に婿に来てもらえば良いではありませんか。そうだ。私が彼を説得しましょう。私達は愛し合う身であるのですから、わかってもらえるはずです」
「むぅ……」
プレリアの勢いに、お父様は押されているようだった。
彼女は興奮している。故に冷静に判断できていない、という訳でもないだろう。このプレリアは、なんでも自分の望み通りになると思っているので、平時でも同じような案を出していたはずだ。
ただそれは、明らかに無茶な要求である。嫡子を婿にやるなんて、余程のことがない限りあり得ないのだから。
「……仕方ないことか」
しかしお父様は、不穏な言葉を口にした。
まさか本当に、プレリアの案を飲むつもりなのだろうか。これは今まで叶えてきた彼女のわがままとは、趣が異なるというのに。
相手がいる問題であるため、お父様の一存でなんとかなる訳ではない。むしろプレリアの要求を出すことで、関係を悪くして敵を作るだけだ。メリットがなさ過ぎる。
どうやらお父様は、貴族としても三流以下であるようだった。こんな人が当主である限り、リヴェルト伯爵家に繁栄はない。お父様の態度に、私はそんなことを思うのだった。
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