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8.おかしな態度
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「まあ、お前にしては上出来だったといえるだろう。バルーガも上機嫌だった」
バルーガ様が去った後、お父様は珍しく私のことを褒めていた。
別に褒められて、嬉しいとは思わない。ただお父様が上機嫌なら小言も言われないし、幾分か気は楽だ。
しかしながら私には、少し気になることがあった。それはこの執務室にいるプレリアとアドミラ様の存在だ。特にプレリアの態度が気掛かりだ。
当然のことながら、私の婚約は二人にとっても無関係な話ではない。故に、この場に来ていることは理解できる。
アドミラ様の方は不機嫌そうな顔をしているが、それはいつも通りのことだ。私のことを快く思っていない彼女は、よくそういう顔を向けてくる。
ただそれは、プレリアも同じであるはずだ。だというのに、今日の彼女はどこか遠くを見つめている。もしかした目の前で行われている会話すら、耳に入っていないかもしれない。
大人しくしている妹は、なんというかむしろ不気味だ。
それはそれで奇妙なことではあるのだが、今はとにかく気になった。
「……プレリア、どうかしたのか?」
「え?」
そんな私の視線を読み取ったのか、お父様がプレリアに声をかけた。
すると彼女は、驚いたような顔をする。やはりかなりぼうっとしていたようだ。
それから妹は、両親の顔を交互に見た。そして私の方に目を向けて、その目を細めて睨みつけきた。
「お父様、お姉様の婚約は考え直すべきものです」
「……何?」
プレリアの言葉に、お父様は明らかに面食らっていた。
それは当然のことである。今回の婚約はプレリアからも許可を取ったと、お父様は言っていた。それが急に覆ったのだから、困惑するだろう。
私も、少し驚いている。ただ別に、取り乱すようなことでもない。大方、私が上手くいっているのが気に食わないとかだろう。この妹なら、それで反対するというのは充分あり得ることだ。
「プレリア、急にどうしたのだ? お前もこの婚約については、賛成してくれていただろう。これでやっと邪魔者を排除して、家族三人で平和に暮らせると……」
「ええ、そう思っていました。しかし、実際にバルーガ様と顔を合わせて理解したのです。お姉様は彼には相応しくないと」
「何?」
「彼に相応しいとしたら、それはきっとこの私のような女性です。私なら彼を支えることができます。献身的に尽くして、きっと二人で幸せな未来を築けることでしょう」
つい先程までは平静だった私も含めて、その場にいるプレリア以外の全員が固まっていた。
それは彼女の言葉が、予想していなかったものだからだ。頬を染めてバルーガ様のことを語る妹が、彼にどのような感情を抱いているかは明白である。
つまりプレリアは、バルーガ様に惚れ込んでいるのだ。結婚することを望むくらいに。
バルーガ様が去った後、お父様は珍しく私のことを褒めていた。
別に褒められて、嬉しいとは思わない。ただお父様が上機嫌なら小言も言われないし、幾分か気は楽だ。
しかしながら私には、少し気になることがあった。それはこの執務室にいるプレリアとアドミラ様の存在だ。特にプレリアの態度が気掛かりだ。
当然のことながら、私の婚約は二人にとっても無関係な話ではない。故に、この場に来ていることは理解できる。
アドミラ様の方は不機嫌そうな顔をしているが、それはいつも通りのことだ。私のことを快く思っていない彼女は、よくそういう顔を向けてくる。
ただそれは、プレリアも同じであるはずだ。だというのに、今日の彼女はどこか遠くを見つめている。もしかした目の前で行われている会話すら、耳に入っていないかもしれない。
大人しくしている妹は、なんというかむしろ不気味だ。
それはそれで奇妙なことではあるのだが、今はとにかく気になった。
「……プレリア、どうかしたのか?」
「え?」
そんな私の視線を読み取ったのか、お父様がプレリアに声をかけた。
すると彼女は、驚いたような顔をする。やはりかなりぼうっとしていたようだ。
それから妹は、両親の顔を交互に見た。そして私の方に目を向けて、その目を細めて睨みつけきた。
「お父様、お姉様の婚約は考え直すべきものです」
「……何?」
プレリアの言葉に、お父様は明らかに面食らっていた。
それは当然のことである。今回の婚約はプレリアからも許可を取ったと、お父様は言っていた。それが急に覆ったのだから、困惑するだろう。
私も、少し驚いている。ただ別に、取り乱すようなことでもない。大方、私が上手くいっているのが気に食わないとかだろう。この妹なら、それで反対するというのは充分あり得ることだ。
「プレリア、急にどうしたのだ? お前もこの婚約については、賛成してくれていただろう。これでやっと邪魔者を排除して、家族三人で平和に暮らせると……」
「ええ、そう思っていました。しかし、実際にバルーガ様と顔を合わせて理解したのです。お姉様は彼には相応しくないと」
「何?」
「彼に相応しいとしたら、それはきっとこの私のような女性です。私なら彼を支えることができます。献身的に尽くして、きっと二人で幸せな未来を築けることでしょう」
つい先程までは平静だった私も含めて、その場にいるプレリア以外の全員が固まっていた。
それは彼女の言葉が、予想していなかったものだからだ。頬を染めてバルーガ様のことを語る妹が、彼にどのような感情を抱いているかは明白である。
つまりプレリアは、バルーガ様に惚れ込んでいるのだ。結婚することを望むくらいに。
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