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5.彼女の心残り
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「マリーサさんは、一体何と言っていたのですか?」
「あなたのことを心配していました。それだけが気掛かりだと……心残りだと言っていました」
「それは……」
マリーサさんが私のことを心残りだと思っていたということについては、複雑な気持ちになった。
そんな風に気に掛けてくれていたことは、嬉しく思う。ただ、そんな風に悔いを残させてしまったことは申し訳ない。
私がもう少しきちんとしていれば、マリーサさんも満足のいく最期が迎えられていたことだろう。自分の弱さというものが情けない限りだ。
「あなたが気に病むようなことではありませんよ」
「え?」
「大叔母様から、ある程度の話は聞いています。あなたは辛い立場にあるようですね」
「……まあ、そうですね」
マレイド様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
自分自身で不幸な立場だと言っていいのかは、少し迷った。だが今は、否定するよりも肯定した方が早いと思ったのだ。
「大叔母様も、なんとかしたいとは思っていたようですが、それはついぞ叶わなかったようですね……」
「それは仕方ないことです。曲がりなりにも、相手は伯爵家ですからね。マリーサさんは、男爵家の血筋とはいえ、結局は使用人でしかありません。それでもやれることはやっていただきました。彼女の存在が、私にとってどれだけ支えになったことか……」
「そう言っていただけると、大叔母様も浮かばれます」
マリーサさんには、とてもお世話になった。彼女の存在があったからこそ、ここまでやって来られたとさえ思っている。
彼女は、充分過ぎる程に私のことを支えてくれた。それ以上のことなど、望んだことなどない。
それはきっと、私が自らの手で解決しなければならない問題なのだろう。それができていないのは、私が未熟だからだ。
「……僕達は大叔母様の意思を継ぐつもりです。何かあったら、ミルドレッド男爵家を頼ってください。微力ではありますが、力になります」
「それは……ありがたい限りですが、よろしいのですか? 私のように面倒事を引き受けても、良いことなんてありませんよ?」
「もちろんです。遠慮なんて必要ありません」
マレイド様は、私の冗談めかした言葉に真剣な表情を返してくれた。
それはつまり、彼が本気であるということなのだろう。私にとって、それはありがたいことである。
しかしありがたいことであるからこそ、頼りたくはない所だ。これ以上あの悪しきリヴェルト伯爵家に、マリーサさんの親族を巻き込みたくはない。
とはいえ、いざとなったら遠慮なんてしてはいられないだろう。私だって、命は惜しい。本当にどうしようもない時は、頼らせてもらうことにしよう。
「あなたのことを心配していました。それだけが気掛かりだと……心残りだと言っていました」
「それは……」
マリーサさんが私のことを心残りだと思っていたということについては、複雑な気持ちになった。
そんな風に気に掛けてくれていたことは、嬉しく思う。ただ、そんな風に悔いを残させてしまったことは申し訳ない。
私がもう少しきちんとしていれば、マリーサさんも満足のいく最期が迎えられていたことだろう。自分の弱さというものが情けない限りだ。
「あなたが気に病むようなことではありませんよ」
「え?」
「大叔母様から、ある程度の話は聞いています。あなたは辛い立場にあるようですね」
「……まあ、そうですね」
マレイド様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
自分自身で不幸な立場だと言っていいのかは、少し迷った。だが今は、否定するよりも肯定した方が早いと思ったのだ。
「大叔母様も、なんとかしたいとは思っていたようですが、それはついぞ叶わなかったようですね……」
「それは仕方ないことです。曲がりなりにも、相手は伯爵家ですからね。マリーサさんは、男爵家の血筋とはいえ、結局は使用人でしかありません。それでもやれることはやっていただきました。彼女の存在が、私にとってどれだけ支えになったことか……」
「そう言っていただけると、大叔母様も浮かばれます」
マリーサさんには、とてもお世話になった。彼女の存在があったからこそ、ここまでやって来られたとさえ思っている。
彼女は、充分過ぎる程に私のことを支えてくれた。それ以上のことなど、望んだことなどない。
それはきっと、私が自らの手で解決しなければならない問題なのだろう。それができていないのは、私が未熟だからだ。
「……僕達は大叔母様の意思を継ぐつもりです。何かあったら、ミルドレッド男爵家を頼ってください。微力ではありますが、力になります」
「それは……ありがたい限りですが、よろしいのですか? 私のように面倒事を引き受けても、良いことなんてありませんよ?」
「もちろんです。遠慮なんて必要ありません」
マレイド様は、私の冗談めかした言葉に真剣な表情を返してくれた。
それはつまり、彼が本気であるということなのだろう。私にとって、それはありがたいことである。
しかしありがたいことであるからこそ、頼りたくはない所だ。これ以上あの悪しきリヴェルト伯爵家に、マリーサさんの親族を巻き込みたくはない。
とはいえ、いざとなったら遠慮なんてしてはいられないだろう。私だって、命は惜しい。本当にどうしようもない時は、頼らせてもらうことにしよう。
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