わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
47 / 54

47

しおりを挟む
 私は、イルファー様の弟であるエルクル様と話していた。
 エルクル様は、真面目な人である。その丁寧な挨拶から、それが読み取れた。
 彼のことはわかったので、次はその隣にいる婚約者のことを聞いた方がいいだろう。彼女のことは少し知っているが、二人の口から聞いておきたい。

「それで、そちらの女性は……」
「ええ、紹介させてもらいます。こちらは、僕の婚約者であるフローナ・レフェイグ侯爵令嬢です」
「フローナ・レフェイグです。よろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いします」

 彼の婚約者は、フローナ様という人である。
 それは知っていた。王子の婚約者が誰かは、貴族なら当然把握している。
 そもそも、私は彼女と会ったことがあった。同じ貴族であるため、何度か顔を合わせたことがあるのだ。
 ただ、私は少しだけ驚いていた。彼女の印象が、前に会った時と異なっていたからだ。

「驚いていますか?」
「え?」
「いえ、あなたが彼女を見て、表情を変えたので、そうなのではないかと思ったのです」
「あ、はい……申し訳ありません」

 そんな私に、エルクル様は質問してきた。
 どうやら、結構露骨に表情に出てしまっていたようだ。
 これは、失礼だったかもしれない。もう少し、態度に出さないようにするべきだっただろう。

「謝らないでください。あなたの驚きは理解していますから……」
「あ、はい……」
「彼女は、昔と少し変わりました。それで、あなたは驚いたのですよね?」
「ええ、そうなのです……」

 エルクル様もフローナ様も、私の態度は気にしていないようだった。
 二人も、どうして私が驚いているからわかっているから、そのように言ってくれるのだろう。
 フローナ様は、以前はとても冷たい印象を受ける人だった。何が起きても、無表情であり、正直怖い人だったのだ。
 それが、今はとても柔らかい顔をしている。その変化に、私は戸惑っていたのだ。

「私は、エルクル様に変えてもらったのです。冷たくなっていた私の心を、彼が温めてくれたのです」
「あはは、なんだか恥ずかしいですね……」

 エルクル様とフローナ様は、二人で笑い合っていた。
 その様子を見て、二人がとても仲が良いことがわかる。
 恐らく、二人は本当に好き合っているのだろう。利益だとかそういうことではなく、恋愛的な意味でも婚約者なのだ。

「どうかしたのか?」
「あ、いえ……」

 そこで、私は思わずイルファー様のことを見ていた。
 彼と私が、あのようになれるのかと思ったからだ。
 正直言って、イルファー様とあのように仲良くできるとは思えない。私達は、どこまで行っても、利益を求める関係になるのではないだろうか。
 そう思って、私は少し悲しくなった。それを悲しいと思える気持ちが自分の中にあったことは、少し驚きである。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

貴族の爵位って面倒ね。

しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。 両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。 だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって…… 覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして? 理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの? ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で… 嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

処理中です...