わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
43 / 54

43

しおりを挟む
 私は、イルファー様に王城の書庫に連れてこられていた。
 王子の一人が、ここにいるのだろう。

「ここに王子の一人がいるのですか?」
「ああ、暇があったら、奴は大抵ここにいる。恐らく、今日も来ているだろう」
「あっ……」
「やはり、ここにいたか」

 書庫を進んで行くと、一人の男性が本を読んでいた。
 男性は、私達に気づいていない。本に夢中になっているのだろう。
 ここに入る際、戸を開けた音は下だろうし、足音もしたはずである。それなのに気づいていないということは、相当集中しているということだ。

「ウォールス、いつまで本に夢中になっている」
「……」

 イルファー様が話しかけても、男性は答えなかった。
 この人が、この国の第三王子であるウォールス様なのである。

「いい加減にしろ」
「なっ……!」

 まったく気づかない第三王子に対して、イルファー様は本を取り上げるという手段で対抗した。
 そこまでしないと気づかないというのは、最早心配になってくるレベルである。

「兄貴? それに、そっちの女性は……」
「話していたことを覚えているか? こちらが、私の婚約者であるリルミア・フォルフィス侯爵令嬢だ」
「リルミア・フォルフィスです」
「ああ、そういえば、そんな話を聞いた気がするな……」

 ウォールス様は、ゆっくりと立ち上がり、こちらに手を伸ばしてきた。
 とりあえず、私はその手を取る。握手してみてわかったが、彼の手は所々盛り上がっている。恐らく、タコか何かができているのだろう。
 よく見てみると、彼は結構筋肉質だ。本の虫であるらしいが、武術の類も心得があるのかもしれない。

「俺は、ウォールス。この国の第三王子だ。あんたにとっては、義弟になる存在という所かな?」
「あ、はい……よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む」

 ウォールス様は、イルファー様に比べて大分軽い口調だった。
 人によっては、失礼と思われかねないような態度である。だが、私は別に気にならない。
 長年、失礼な男と婚約者だった私にはわかる。彼は、別に悪い人ではない。相手を見下しているとか、そういう訳ではないのだ。

「ウォーラス、本に集中するのはいいが、周りのことをもっと気にかけろ。私達の来訪に気づかない程に夢中になることはいいことではないぞ」
「悪かった。でも、そいつには興味深いことが書いてあるんだよ。全部頭に入れるには、それなりに集中しなければならなかったんだ」
「それでも、周りのことも気にかけろ。そうでなければ、いざという時困るのはお前だぞ」
「わかった。肝に銘じておくことにするさ」

 イルファー様は、ウォーラス様のことを注意していた。
 その様子だけ見ていると、普通の兄弟である。元々、彼は兄との確執しかもっていなかった。そのため、弟とは普通に接することができるのだろう。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた

今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。 二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。 それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。 しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。 調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

お姉さまに婚約者を奪われたけど、私は辺境伯と結ばれた~無知なお姉さまは辺境伯の地位の高さを知らない~

マルローネ
恋愛
サイドル王国の子爵家の次女であるテレーズは、長女のマリアに婚約者のラゴウ伯爵を奪われた。 その後、テレーズは辺境伯カインとの婚約が成立するが、マリアやラゴウは所詮は地方領主だとしてバカにし続ける。 しかし、無知な彼らは知らなかったのだ。西の国境線を領地としている辺境伯カインの地位の高さを……。 貴族としての基本的な知識が不足している二人にテレーズは失笑するのだった。 そしてその無知さは取り返しのつかない事態を招くことになる──。

価値がないと言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした

風見ゆうみ
恋愛
「俺とルピノは愛し合ってるんだ。君にわかる様に何度も見せつけていただろう? そろそろ、婚約破棄してくれないか? そして、ルピノの代わりに隣国の王太子の元に嫁いでくれ」  トニア公爵家の長女である私、ルリの婚約者であるセイン王太子殿下は私の妹のルピノを抱き寄せて言った。 セイン殿下はデートしようといって私を城に呼びつけては、昔から自分の仕事を私に押し付けてきていたけれど、そんな事を仰るなら、もう手伝ったりしない。 仕事を手伝う事をやめた私に、セイン殿下は私の事を生きている価値はないと罵り、婚約破棄を言い渡してきた。 唯一の味方である父が領地巡回中で不在の為、婚約破棄された事をきっかけに、私の兄や継母、継母の子供である妹のルピノからいじめを受けるようになる。 生きている価値のない人間の居場所はここだと、屋敷内にある独房にいれられた私の前に現れたのは、私の幼馴染みであり、妹の初恋の人だった…。 ※8/15日に完結予定です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観ですのでご了承くださいませ。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

処理中です...