わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

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 私は、イルファー様と二人で部屋にいた。
 アロード様と和解してから、彼はまだ一言も発していない。色々なことを考えているのだろう。

「……お前には、礼を言わなければならないな」
「え? あ、はい……」

 長い沈黙を破って、イルファー様は私に話しかけてきた。
 急に話しかけられて、私は少し困惑してしまった。だが、その内容は理解できる。

「お前のおかげで、私は兄上と和解することができた。ありがとう、そう言っておこう」
「い、いえ、私はイルファー様にしてもらったことを返しただけに過ぎません」
「だが、お前が私のために動いてくれたのは事実だ……」
「いえ、それも彼に頼まれたからです。あなたが感謝するとしたなら、彼になのだと思います」

 私は、イルファー様から感謝されるようなことはしていなかった。
 彼が私達の家族の中を取り持ってくれたから、その恩返しをしただけに過ぎないのだ。
 そもそも、私はルヴィドに頼まなければ、こんなことはしなかっただろう。つまり、感謝を向けられるとしても、それは弟であるべきなのだ。

「ふん……」

 私の言葉に、イルファー様はため息を吐いた。
 それは、ルヴィドに向けられたものなのだろう。
 彼と弟は、つい最近知り合ったばかりだ。事実は違うが、そういうことになっている。

 そんな彼に対して、イルファー様は感謝を述べることはできないだろう。他国で暮らしていた彼が、イルファー様の事情を知るはずがない。私に頼むこともできなかったはずである。
 だから、イルファー様は自分でお礼を言うことも、私に感謝の気持ちを伝えるように言うこともできない。彼の性格上、絶対にそんなことはしないだろう。

 だが、それでも問題ないと私は思っていた。
 彼は、きっと心の中でルヴィドに感謝している。その感謝を、弟は必ず理解しているだろう。そういう信頼関係が、二人にはあるはずだ。

「お前が感謝の言葉がいらないというなら、私からはもう何も言うまい」
「ええ、それでいいです」
「……一つ注意をしておけ。もし奴が私に関することを聞いてきたりしても、お前は何も答えるな。聞いたことを咎めるつもりでいるのだ」
「はい、わかっています」

 彼が述べてきたのは、今後のことだった。
 今回、ルヴィドは禁忌を犯した。関わりがないはずのイルファー様のことを、私に話したのだ。それが、二度あってはならない。
 それは、ルヴィドもわかっているはずだ。だから、きっとイルファー様がどうなったかは聞いてこないだろう。
 聞いてきた場合、私は彼を中止しなければならない。それが、イルファー様のためでも、ルヴィドのためでもあるのだ。
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