41 / 54
41
しおりを挟む
私は、イルファー様と二人で部屋にいた。
アロード様と和解してから、彼はまだ一言も発していない。色々なことを考えているのだろう。
「……お前には、礼を言わなければならないな」
「え? あ、はい……」
長い沈黙を破って、イルファー様は私に話しかけてきた。
急に話しかけられて、私は少し困惑してしまった。だが、その内容は理解できる。
「お前のおかげで、私は兄上と和解することができた。ありがとう、そう言っておこう」
「い、いえ、私はイルファー様にしてもらったことを返しただけに過ぎません」
「だが、お前が私のために動いてくれたのは事実だ……」
「いえ、それも彼に頼まれたからです。あなたが感謝するとしたなら、彼になのだと思います」
私は、イルファー様から感謝されるようなことはしていなかった。
彼が私達の家族の中を取り持ってくれたから、その恩返しをしただけに過ぎないのだ。
そもそも、私はルヴィドに頼まなければ、こんなことはしなかっただろう。つまり、感謝を向けられるとしても、それは弟であるべきなのだ。
「ふん……」
私の言葉に、イルファー様はため息を吐いた。
それは、ルヴィドに向けられたものなのだろう。
彼と弟は、つい最近知り合ったばかりだ。事実は違うが、そういうことになっている。
そんな彼に対して、イルファー様は感謝を述べることはできないだろう。他国で暮らしていた彼が、イルファー様の事情を知るはずがない。私に頼むこともできなかったはずである。
だから、イルファー様は自分でお礼を言うことも、私に感謝の気持ちを伝えるように言うこともできない。彼の性格上、絶対にそんなことはしないだろう。
だが、それでも問題ないと私は思っていた。
彼は、きっと心の中でルヴィドに感謝している。その感謝を、弟は必ず理解しているだろう。そういう信頼関係が、二人にはあるはずだ。
「お前が感謝の言葉がいらないというなら、私からはもう何も言うまい」
「ええ、それでいいです」
「……一つ注意をしておけ。もし奴が私に関することを聞いてきたりしても、お前は何も答えるな。聞いたことを咎めるつもりでいるのだ」
「はい、わかっています」
彼が述べてきたのは、今後のことだった。
今回、ルヴィドは禁忌を犯した。関わりがないはずのイルファー様のことを、私に話したのだ。それが、二度あってはならない。
それは、ルヴィドもわかっているはずだ。だから、きっとイルファー様がどうなったかは聞いてこないだろう。
聞いてきた場合、私は彼を中止しなければならない。それが、イルファー様のためでも、ルヴィドのためでもあるのだ。
アロード様と和解してから、彼はまだ一言も発していない。色々なことを考えているのだろう。
「……お前には、礼を言わなければならないな」
「え? あ、はい……」
長い沈黙を破って、イルファー様は私に話しかけてきた。
急に話しかけられて、私は少し困惑してしまった。だが、その内容は理解できる。
「お前のおかげで、私は兄上と和解することができた。ありがとう、そう言っておこう」
「い、いえ、私はイルファー様にしてもらったことを返しただけに過ぎません」
「だが、お前が私のために動いてくれたのは事実だ……」
「いえ、それも彼に頼まれたからです。あなたが感謝するとしたなら、彼になのだと思います」
私は、イルファー様から感謝されるようなことはしていなかった。
彼が私達の家族の中を取り持ってくれたから、その恩返しをしただけに過ぎないのだ。
そもそも、私はルヴィドに頼まなければ、こんなことはしなかっただろう。つまり、感謝を向けられるとしても、それは弟であるべきなのだ。
「ふん……」
私の言葉に、イルファー様はため息を吐いた。
それは、ルヴィドに向けられたものなのだろう。
彼と弟は、つい最近知り合ったばかりだ。事実は違うが、そういうことになっている。
そんな彼に対して、イルファー様は感謝を述べることはできないだろう。他国で暮らしていた彼が、イルファー様の事情を知るはずがない。私に頼むこともできなかったはずである。
だから、イルファー様は自分でお礼を言うことも、私に感謝の気持ちを伝えるように言うこともできない。彼の性格上、絶対にそんなことはしないだろう。
だが、それでも問題ないと私は思っていた。
彼は、きっと心の中でルヴィドに感謝している。その感謝を、弟は必ず理解しているだろう。そういう信頼関係が、二人にはあるはずだ。
「お前が感謝の言葉がいらないというなら、私からはもう何も言うまい」
「ええ、それでいいです」
「……一つ注意をしておけ。もし奴が私に関することを聞いてきたりしても、お前は何も答えるな。聞いたことを咎めるつもりでいるのだ」
「はい、わかっています」
彼が述べてきたのは、今後のことだった。
今回、ルヴィドは禁忌を犯した。関わりがないはずのイルファー様のことを、私に話したのだ。それが、二度あってはならない。
それは、ルヴィドもわかっているはずだ。だから、きっとイルファー様がどうなったかは聞いてこないだろう。
聞いてきた場合、私は彼を中止しなければならない。それが、イルファー様のためでも、ルヴィドのためでもあるのだ。
1
お気に入りに追加
3,565
あなたにおすすめの小説

もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?
当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。
ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。
対して領民の娘イルアは、本気だった。
もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。
けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。
誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。
弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。
ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。
今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、
5年経っても帰ってくることはなかった。
そして、10年後…
「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる