わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

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 アロード様は、イルファー様が納得しなくても諦めなかった。
 彼の決意は、かなり固いようだ。そのことに、私は一先ず安心する。
 私が口を挟まないといけない。そう思ったが、それは必要ないようだ。

「僕はいつも、弟達を導くことを意識している。だから、弱い部分は見えないようにしてきた。だけど、その弱い部分を敢えてみせるべきだったのだろうね」
「弱い部分? あなたに、そんな部分があるのですか?」
「指導の先生に聞いてみるといい。僕がそこまで優秀ではないことを、彼等は知っている。君は、僕の評価を先生方から聞いたことがあるかな? 例えば、僕と比べて不出来だなどと言われたかい?」
「……確かに、兄上と比べられたことはありませんが」
「そうだろう? 彼等にとっては、僕も君も変わらない。それが理解できるはずだ」

 アロード様は、優しい口調でイルファー様に語りかけていた。
 その様子を見ていると、彼等は幼い兄弟のようだ。きっと、二人にはそういう時間が必要だったのだろう。
 きちんと向き合って話す時間があれば、このように拗れることはなかったはずだ。

 それが、イルファー様にはわからなかった。
 私達家族の歪さを理解していた彼でも、自分のことになるとわからないものなのだ。
 きっと、誰かが客観的に教えてあげなければならなかったのだろう。しかし、王族である二人に対して、そんなことを言える人はほとんどいない。だから、二人はここまで拗れ続けていたのだろう。

「僕は、君が思っているより強くない。何度も失敗を重ねてきた。例えば、数学はそんなに得意ではない。今でも、数字を見ると逃げたくなるよ」
「まさか……」
「長い文章も、そこまで好きではないかな? 国の文書とかを見ているのは、結構辛いよ。でも、それが僕の使命だから、きちんとやっている。ただ、それだけのことだよ」
「……」

 アロード様の言葉に、イルファー様は目を丸めていた。
 完璧な兄が、こんなにも欠点を抱えていたとは思っていなかったのだろう。
 ただ、先程までの険しい表情が少し和らいでいるのはいいことだ。目の前にいる兄が、自分を変わらないことが理解できてきているのだろう。

「まあ、確かに僕は優秀な人間だよ。自分で言うのもなんだけど、他者からはそう評価されている。でも、その裏では色々と努力しているのさ」
「そう……ですね」
「そういう部分を、君にはわかって欲しい。それがわかったなら、君と僕は分かり合えるはずさ。どうか、この手を取ってくれないか?」

 アロード様は、その手をゆっくりと差し出した。
 少し迷った後、イルファー様はそれを握りしめる。

「ありがとう、イルファー……」

 二人の関係が、これで劇的に変わるという訳ではないだろう。
 だが、確かに二人の関係は動き出そうとしている。ともに過ごしていく内に、二人の間にあったわだかまりは完全に消えるはずだ。
 こうして、二人の話し合いは終わるのだった。
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