わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
39 / 54

39

しおりを挟む
 私は、アロード様とイルファー様の話し合いに立ち会うことになった。
 最初は緊張していたイルファー様だったが、アロード様の言葉により、少しだけ警戒は解けたようである。

「さて、何から話そうか……いや、よそうか。単刀直入に言わせてもらう。僕は、君が思っているような人間ではない」
「どういう意味ですか?」
「完璧な人間ではないということさ」
「む……」

 アロード様は、最初に結論を言った。
 紆余曲折するよりも、直球で言った方がいいと思ったのだろう。
 その言葉に、イルファー様の表情は歪む。あまり、信じられていないようだ。

「謙遜する必要はありません。あなたが完璧な人間であるということは、もうわかっています。この国暮らすほとんどの人が、それは理解しているでしょう」
「違う。それは勘違いだ。僕はそんなに優秀な人間ではない。もっと、弱々しい人間なのさ」
「弱々しい人間? あなたが……?」

 イルファー様は、アロード様の言葉をまったく信用していなかった。
 本当に、彼の中では完璧なのだろう。その完璧な人間が、弱々しいなどとは、そう簡単に受け入れられないのである。

「例えば、僕は君との関係に悩んでいる。君が何を思っているのか、それは想像できるけど、どうすればいいのかわからないのさ」
「どういうことです?」
「君とのこの奇妙な関係に、僕は終止符を打ちたい。だけど、その方法がわからなかった。いや、わからなかった訳ではないかな? でも、そこから目を逸らしていたのは確かさ」
「それは……」

 アロード様の言葉に、イルファー様は驚いていた。
 簡単なことだが、そこには気づいていなかったのだろう。
 だが、言われてみれば納得できるはずだ。完璧なはずの彼が、自分との関係で悩んでいる。そこに違和感を覚えるはずだ。

「僕が完璧な人間なら、君との関係も簡単に解決できるはずだろう? 僕には、それができなかったのさ。つまり、僕は完璧な人間ではない。そういう理解ができないかい?」
「……確かに、そうかもしれません。ですが、それ以外のあなたは完璧な人間です。私より優秀であることは間違いありません」
「……なるほど、君はそういう結論を出すのだね」

 イルファー様は、アロード様の理論を完全に受け入れなかった。
 聡明な彼にしては、かなり強情な反応だ。それ程に、自身の中にある思いが強いのだろうか。

「それなら、もう少しだけ話をさせてもらおうか。僕にとって、苦い思い出だけど、君には話しておくべきだろう」
「何を……」

 しかし、それでもアロード様は折れなかった。
 まだ、イルファー様に話せることがあるらしい。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた

今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。 二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。 それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。 しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。 調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】侯爵令嬢ガブリエラの災難な結婚 ~ふわふわ王太子に見初められたので婚約破棄を目指します!

三矢さくら
恋愛
【完結しました】ガブリエラはヴィラーグ王国の侯爵令嬢。突然、王太子アルパードから結婚の申し入れをされる。 だけど嬉しくない。なぜならヴィラーグ王国では三大公爵家の権勢が絶大。王太子妃は王家にも比肩する勢力の三大公爵家から輩出するのが慣例で、ガブリエラが王太子妃になれば実家のホルヴァース侯爵家がいじめ潰されてしまう。 かといって光栄な申し入れを断っても王家への不敬。それもお家断絶につながりかねない。 やむなく一旦は婚約するけれど、愛する実家を守るためどうにか穏便に婚約破棄しようと、ガブリエラの奮闘がはじまる。 しかし、アルパードの誰もが見惚れる美麗な笑顔と、まるで子供のように純粋な瞳。そして、アルパードがなぜ自分を選んだのか、その驚くべき理由を知ったガブリエラは、次第にアルパードに惹かれてしまい――。 ガブリエラとアルパードの初々しい恋は、王位継承を巡る陰謀、隣国との複雑な駆け引き、さらには権謀渦巻く国際謀略の渦へと呑み込まれてゆく。 華麗で重厚な王朝絵巻を舞台に、優雅で可憐で個性豊かなご令嬢キャラが多数活躍する、実は才色兼備で文武両道の猫かぶり令嬢ガブリエラが軽快に駆け抜ける、異色の異世界恋愛外交ファンタジー。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

処理中です...