38 / 54
38
しおりを挟む
私は、アロード様とイルファー様と同じ部屋にいた。
立会人として、二人の話し合いを見届けるのだ。
部屋の空気は、とても重苦しい。二人の間にある確執が、その空気を作っているのだろう。
だが、今からその確執を取り除くのである。アロード様が、素直な気持ちを打ち明けてくれれば、二人の空気は変わるはずだ。
「イルファー、このように君と話すのは、久し振りだね」
「ええ、そうですね……」
アロード様は、少し苦笑いをしている。それは、イルファー様の態度が原因だろう。
彼は、とても緊張しているのだ。真剣な顔だが、それは目に見えている。
そんな彼の姿は、今まで見たことがない。あのイルファー様がここまでなるとは、とても驚きである。
「まあ、緊張しないでいいよ。それとも、婚約者の前だから、格好つけないといけないのかな?」
「……何を言っているのですか?」
「え? いや、別に……」
アロード様の言葉に、イルファー様は真顔で返していた。
恐らく、この場を和ませるために放った言葉なのだが、それも通用しなかったようだ。
アロード様は、少し落ち込んでいるように見える。その様は、少し可哀そうだ。
「……今日は、君に僕の素直な気持ちを伝えたいと思って、呼び出したんだ」
「素直な気持ち? あなたの内面を、私に教えて頂けるのですか?」
「……ああ」
イルファー様は、少し表情を変えていた。
その表情は、アロード様を疑うような疑念に溢れた表情である。
彼にとって、兄の内面はとても気になるものであるはずだ。しかし、それを素直に話してもらえるとは思っていないのだろう。だから、アロード様の言葉を疑っているのだ。
「……そちらにいる君の婚約者と話した結果、僕はそれを言わなければならないと思った。こう言えば、君は納得できるかな?」
「……なるほど」
アロード様が私のことを言うと、イルファー様がこちらを見てきた。
その視線は、私に何かを問いかけているかのような視線だ。
私は、しっかりと彼を睨み返す。その視線に、怯んではいけない。私も、しっかりと彼に応えなければならないのだ。
「彼女が、兄上の心を動かしたのですか?」
「ああ、そういうことになるよ」
「そうですか……」
イルファー様は、少しだけ笑っていた。
その笑みが、何を表しているかはわからない。
ただ、アロード様の言葉に対して納得したことは確かだろう。彼の緊張が、少し和らいでいるのだ。それは、兄が本気だと理解したからだろう。
これで、やっとアロード様は話が始められる。とりあえず、一安心といった所だろうか。
立会人として、二人の話し合いを見届けるのだ。
部屋の空気は、とても重苦しい。二人の間にある確執が、その空気を作っているのだろう。
だが、今からその確執を取り除くのである。アロード様が、素直な気持ちを打ち明けてくれれば、二人の空気は変わるはずだ。
「イルファー、このように君と話すのは、久し振りだね」
「ええ、そうですね……」
アロード様は、少し苦笑いをしている。それは、イルファー様の態度が原因だろう。
彼は、とても緊張しているのだ。真剣な顔だが、それは目に見えている。
そんな彼の姿は、今まで見たことがない。あのイルファー様がここまでなるとは、とても驚きである。
「まあ、緊張しないでいいよ。それとも、婚約者の前だから、格好つけないといけないのかな?」
「……何を言っているのですか?」
「え? いや、別に……」
アロード様の言葉に、イルファー様は真顔で返していた。
恐らく、この場を和ませるために放った言葉なのだが、それも通用しなかったようだ。
アロード様は、少し落ち込んでいるように見える。その様は、少し可哀そうだ。
「……今日は、君に僕の素直な気持ちを伝えたいと思って、呼び出したんだ」
「素直な気持ち? あなたの内面を、私に教えて頂けるのですか?」
「……ああ」
イルファー様は、少し表情を変えていた。
その表情は、アロード様を疑うような疑念に溢れた表情である。
彼にとって、兄の内面はとても気になるものであるはずだ。しかし、それを素直に話してもらえるとは思っていないのだろう。だから、アロード様の言葉を疑っているのだ。
「……そちらにいる君の婚約者と話した結果、僕はそれを言わなければならないと思った。こう言えば、君は納得できるかな?」
「……なるほど」
アロード様が私のことを言うと、イルファー様がこちらを見てきた。
その視線は、私に何かを問いかけているかのような視線だ。
私は、しっかりと彼を睨み返す。その視線に、怯んではいけない。私も、しっかりと彼に応えなければならないのだ。
「彼女が、兄上の心を動かしたのですか?」
「ああ、そういうことになるよ」
「そうですか……」
イルファー様は、少しだけ笑っていた。
その笑みが、何を表しているかはわからない。
ただ、アロード様の言葉に対して納得したことは確かだろう。彼の緊張が、少し和らいでいるのだ。それは、兄が本気だと理解したからだろう。
これで、やっとアロード様は話が始められる。とりあえず、一安心といった所だろうか。
0
お気に入りに追加
3,565
あなたにおすすめの小説
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。
ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。
今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、
5年経っても帰ってくることはなかった。
そして、10年後…
「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

貴族の爵位って面倒ね。
しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。
両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。
だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって……
覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして?
理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの?
ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で…
嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。

妹に婚約を押し付けられた辺境伯様は、正体を隠す王宮騎士様でした
新野乃花(大舟)
恋愛
妹であるクレアは、姉セレーナの事を自分よりも格下の男と婚約させようと画策した。そこでクレアは、かねてから評判の悪かった辺境伯をその婚約相手として突き付け、半ば強引にその関係を成立させる。これでセレーナの泣き顔が見られると確信していたクレアだったものの、辺境伯の正体は誰もが憧れる王宮騎士であり、かえって自分の方が格下の男との婚約を受け入れなければならない状況になってしまい…。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる