わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

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 私は、アロード様とイルファー様と同じ部屋にいた。
 立会人として、二人の話し合いを見届けるのだ。
 部屋の空気は、とても重苦しい。二人の間にある確執が、その空気を作っているのだろう。
 だが、今からその確執を取り除くのである。アロード様が、素直な気持ちを打ち明けてくれれば、二人の空気は変わるはずだ。

「イルファー、このように君と話すのは、久し振りだね」
「ええ、そうですね……」

 アロード様は、少し苦笑いをしている。それは、イルファー様の態度が原因だろう。
 彼は、とても緊張しているのだ。真剣な顔だが、それは目に見えている。
 そんな彼の姿は、今まで見たことがない。あのイルファー様がここまでなるとは、とても驚きである。

「まあ、緊張しないでいいよ。それとも、婚約者の前だから、格好つけないといけないのかな?」
「……何を言っているのですか?」
「え? いや、別に……」

 アロード様の言葉に、イルファー様は真顔で返していた。
 恐らく、この場を和ませるために放った言葉なのだが、それも通用しなかったようだ。
 アロード様は、少し落ち込んでいるように見える。その様は、少し可哀そうだ。

「……今日は、君に僕の素直な気持ちを伝えたいと思って、呼び出したんだ」
「素直な気持ち? あなたの内面を、私に教えて頂けるのですか?」
「……ああ」

 イルファー様は、少し表情を変えていた。
 その表情は、アロード様を疑うような疑念に溢れた表情である。
 彼にとって、兄の内面はとても気になるものであるはずだ。しかし、それを素直に話してもらえるとは思っていないのだろう。だから、アロード様の言葉を疑っているのだ。

「……そちらにいる君の婚約者と話した結果、僕はそれを言わなければならないと思った。こう言えば、君は納得できるかな?」
「……なるほど」

 アロード様が私のことを言うと、イルファー様がこちらを見てきた。
 その視線は、私に何かを問いかけているかのような視線だ。
 私は、しっかりと彼を睨み返す。その視線に、怯んではいけない。私も、しっかりと彼に応えなければならないのだ。

「彼女が、兄上の心を動かしたのですか?」
「ああ、そういうことになるよ」
「そうですか……」

 イルファー様は、少しだけ笑っていた。
 その笑みが、何を表しているかはわからない。
 ただ、アロード様の言葉に対して納得したことは確かだろう。彼の緊張が、少し和らいでいるのだ。それは、兄が本気だと理解したからだろう。
 これで、やっとアロード様は話が始められる。とりあえず、一安心といった所だろうか。
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