わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
37 / 54

37

しおりを挟む
 私は、アロード様と話していた。
 彼は、完璧な人間ではない。弟の関係に悩む、普通の人なのだ。

「アロード様、あなたに少し頼みたいことがあります」
「頼みたいこと? 何かな?」
「ええ、それはあなたにとって勇気がいることかもしれません。ただ、どうか私の願いを聞き届けて頂きたいのです」
「それは、一体……」

 そこで、私はアロード様にあることを頼むことにした。 
 それは、彼にとって、とても勇気がいることだろう。完璧ではないとわかった今、少々酷な頼みであることは自覚している。
 だが、彼が完璧な人間なら、そもそもこの頼みは成立しない。そんな少々複雑な頼みなのである。

「あなたに、イルファー様と向き合って話して欲しいのです」
「向き合って話す……」
「私に先程言ったようなことを、イルファー様に直接言ってください。それが、二人の関係を改善させる一番の方法だと思います」

 私が頼みたいのは、アロード様が素直にイルファー様と話すことだった。 
 正直、それが一番早いのだ。兄の素直な気持ちを聞けば、イルファー様もその認識を改めるだろう。そうすれば、二人の関係は元に戻るはずだ。

「……それは、確かに勇気がいることだね」
「ええ、そうでしょうね……」

 私の言葉に、アロード様はとても気まずそうにしていた。
 この頼みが、彼にとって難しいことだとはわかっている。自分の思いを打ち明けるのは、かなり勇気がいることだ。
 しかし、彼もわかっているだろう。それが一番いい方法だということを。
 だからこそ、そういう表情になるのだろう。複雑な思いが、彼の中で絡み合っているのだ。

「でも、僕が素直に打ち明けていれば、このようなことにはならなかった。そうも思う。だから、僕が決着をつけなければならないのだろうね」
「……酷な頼みだとはわかっています」
「いや、いいよ。君が、どういう思いかもわかっているさ」
「すみません……」

 アロード様は、とても悩んでいた。
 自分のその悩みを打ち明ける勇気を、なんとか絞り出そうとしているのだろう。
 その様子を見ていると、益々彼が完璧な人間だとは思えない。普通の人と同じように、とても弱々しい人に見えるのだ。

「きっと、これはいいきっかけなのだろうね。僕は誰かに言われなければ行動できない。いや、僕だけではないか。イルファーだって、君の弟が言わなければ、君を僕の所まで誘わなかっただろう。結局、僕達は似た者同士なのかな?」
「アロード様……」
「話してみるよ。僕の素直な気持ちを。君も立ち会ってくれ。誰かいないと、流石に気まずそうだ」
「……わかりました。アロード様がいいなら、私が二人の立会人となります」

 かなり悩んだが、アロード様は決意してくれた。
 イルファー様と話す決意。それは、かなり勇気がいるものだろう。その決断を出来た彼は、とても尊敬できる人だ。
 こうして私は、アロード様とイルファー様の話し合いを見届けることになるのだった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた

今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。 二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。 それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。 しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。 調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。 この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。 ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。 え?口うるさい?婚約破棄!? そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。 ☆ あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。 ☆★ 全21話です。 出来上がってますので随時更新していきます。 途中、区切れず長い話もあってすみません。 読んで下さるとうれしいです。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

お姉さまに婚約者を奪われたけど、私は辺境伯と結ばれた~無知なお姉さまは辺境伯の地位の高さを知らない~

マルローネ
恋愛
サイドル王国の子爵家の次女であるテレーズは、長女のマリアに婚約者のラゴウ伯爵を奪われた。 その後、テレーズは辺境伯カインとの婚約が成立するが、マリアやラゴウは所詮は地方領主だとしてバカにし続ける。 しかし、無知な彼らは知らなかったのだ。西の国境線を領地としている辺境伯カインの地位の高さを……。 貴族としての基本的な知識が不足している二人にテレーズは失笑するのだった。 そしてその無知さは取り返しのつかない事態を招くことになる──。

処理中です...