36 / 54
36
しおりを挟む
私は、アロード様に兄に対する印象を語っていた。
同じ兄を持つ者として、イルファー様の考えは理解できる部分もある。だが、彼は少し考え過ぎだ。私は、今それを確信している。
「イルファー様は、あなたを完璧な人間だと思っています」
「みたいだね……」
「でも、あなたは完璧ではないはずです。少なくとも、私はこの数分のやり取りで、それを確信しています」
「確信? そうなのかい?」
私の言葉に、アロード様は目を丸くしていた。
完璧ではないと言われて、驚いているのだろう。恐らく、彼はそのような評価をされたことはないはずだ。
だが、私は今、彼の決定的な弱点を見つけていた。そういう弱点がある時点で、彼は決して完璧ではないだろう。
「あなたは、イルファー様のことで一喜一憂しています。動揺して、焦って、悩んで、私達とまったく変わらない人間だということが、それでわかりました」
「それは……」
「あなたが本当に完璧な人間であるというなら、イルファー様との関係だって、修復できているはずです。それができていないということは、あなたは完璧な人間ではないということです」
「……完璧ではない。僕が……」
アロード様には、明確にイルファーという弱点があった。
彼が弟のことで動揺している様を、私はまじかで見ていた。その時、彼の底知れなさはどこかに消えていたのである。
そのことで、私は警戒を解けると思った。私達と変わらない普通の人だと思ったのだ。
「きっと、本当に完璧な人間なんて、いないと思います。いたとしても、人はそれに気づかないでしょう。本当に完璧なら、人から複雑な感情を向けられることはないのですから……」
「確かに、それなら本当に完璧足りえるのかな?」
「ええ、あなたは優秀な人間です。ただ、それだけだと思います。イルファー様は、あなたがなんでもできると勘違いしてしまっているから、屈折した思いを抱いているだけだと思いますよ」
「……そんなこと、初めて言われたよ。完璧と言われて、僕もいい気になっていたのかな? それを信じてしまっていた。言葉では否定していたけど、心の底では自分は完璧だと思っていたのかもしれない。そういう所も、完璧ではないということなのかもしれないね」
アロード様は、私の言葉に対して苦笑いしていた。
彼自身も、自分は完璧な人間だと思っていたようだ。
それは、周りにそう言われてきたからなのだろう。周囲からの評価で、彼は自身を完璧だと錯覚したのである。
それも、もしかしたらいけなかったのかもしれない。彼自身が、本当は弱い人間だと自覚していれば、イルファー様にもっと素直にそれを告げられたのではないだろうか。
同じ兄を持つ者として、イルファー様の考えは理解できる部分もある。だが、彼は少し考え過ぎだ。私は、今それを確信している。
「イルファー様は、あなたを完璧な人間だと思っています」
「みたいだね……」
「でも、あなたは完璧ではないはずです。少なくとも、私はこの数分のやり取りで、それを確信しています」
「確信? そうなのかい?」
私の言葉に、アロード様は目を丸くしていた。
完璧ではないと言われて、驚いているのだろう。恐らく、彼はそのような評価をされたことはないはずだ。
だが、私は今、彼の決定的な弱点を見つけていた。そういう弱点がある時点で、彼は決して完璧ではないだろう。
「あなたは、イルファー様のことで一喜一憂しています。動揺して、焦って、悩んで、私達とまったく変わらない人間だということが、それでわかりました」
「それは……」
「あなたが本当に完璧な人間であるというなら、イルファー様との関係だって、修復できているはずです。それができていないということは、あなたは完璧な人間ではないということです」
「……完璧ではない。僕が……」
アロード様には、明確にイルファーという弱点があった。
彼が弟のことで動揺している様を、私はまじかで見ていた。その時、彼の底知れなさはどこかに消えていたのである。
そのことで、私は警戒を解けると思った。私達と変わらない普通の人だと思ったのだ。
「きっと、本当に完璧な人間なんて、いないと思います。いたとしても、人はそれに気づかないでしょう。本当に完璧なら、人から複雑な感情を向けられることはないのですから……」
「確かに、それなら本当に完璧足りえるのかな?」
「ええ、あなたは優秀な人間です。ただ、それだけだと思います。イルファー様は、あなたがなんでもできると勘違いしてしまっているから、屈折した思いを抱いているだけだと思いますよ」
「……そんなこと、初めて言われたよ。完璧と言われて、僕もいい気になっていたのかな? それを信じてしまっていた。言葉では否定していたけど、心の底では自分は完璧だと思っていたのかもしれない。そういう所も、完璧ではないということなのかもしれないね」
アロード様は、私の言葉に対して苦笑いしていた。
彼自身も、自分は完璧な人間だと思っていたようだ。
それは、周りにそう言われてきたからなのだろう。周囲からの評価で、彼は自身を完璧だと錯覚したのである。
それも、もしかしたらいけなかったのかもしれない。彼自身が、本当は弱い人間だと自覚していれば、イルファー様にもっと素直にそれを告げられたのではないだろうか。
1
お気に入りに追加
3,565
あなたにおすすめの小説
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

貴族の爵位って面倒ね。
しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。
両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。
だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって……
覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして?
理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの?
ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で…
嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる