わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

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 私は、アロード様に兄に対する印象を語っていた。
 同じ兄を持つ者として、イルファー様の考えは理解できる部分もある。だが、彼は少し考え過ぎだ。私は、今それを確信している。

「イルファー様は、あなたを完璧な人間だと思っています」
「みたいだね……」
「でも、あなたは完璧ではないはずです。少なくとも、私はこの数分のやり取りで、それを確信しています」
「確信? そうなのかい?」

 私の言葉に、アロード様は目を丸くしていた。
 完璧ではないと言われて、驚いているのだろう。恐らく、彼はそのような評価をされたことはないはずだ。
 だが、私は今、彼の決定的な弱点を見つけていた。そういう弱点がある時点で、彼は決して完璧ではないだろう。

「あなたは、イルファー様のことで一喜一憂しています。動揺して、焦って、悩んで、私達とまったく変わらない人間だということが、それでわかりました」
「それは……」
「あなたが本当に完璧な人間であるというなら、イルファー様との関係だって、修復できているはずです。それができていないということは、あなたは完璧な人間ではないということです」
「……完璧ではない。僕が……」

 アロード様には、明確にイルファーという弱点があった。
 彼が弟のことで動揺している様を、私はまじかで見ていた。その時、彼の底知れなさはどこかに消えていたのである。
 そのことで、私は警戒を解けると思った。私達と変わらない普通の人だと思ったのだ。

「きっと、本当に完璧な人間なんて、いないと思います。いたとしても、人はそれに気づかないでしょう。本当に完璧なら、人から複雑な感情を向けられることはないのですから……」
「確かに、それなら本当に完璧足りえるのかな?」
「ええ、あなたは優秀な人間です。ただ、それだけだと思います。イルファー様は、あなたがなんでもできると勘違いしてしまっているから、屈折した思いを抱いているだけだと思いますよ」
「……そんなこと、初めて言われたよ。完璧と言われて、僕もいい気になっていたのかな? それを信じてしまっていた。言葉では否定していたけど、心の底では自分は完璧だと思っていたのかもしれない。そういう所も、完璧ではないということなのかもしれないね」

 アロード様は、私の言葉に対して苦笑いしていた。
 彼自身も、自分は完璧な人間だと思っていたようだ。
 それは、周りにそう言われてきたからなのだろう。周囲からの評価で、彼は自身を完璧だと錯覚したのである。
 それも、もしかしたらいけなかったのかもしれない。彼自身が、本当は弱い人間だと自覚していれば、イルファー様にもっと素直にそれを告げられたのではないだろうか。
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