わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

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 私は、アロード様からイルファー様のことを聞いていた。
 彼は、単純に兄として弟のことを心配している。その事実がわかっただけで、私の彼に対する警戒は少しだけ解けていた。
 底知れなさを感じていたが、それは第一王子としての彼の姿なのだ。根本は、私達と変わらない。それが理解できて、少しだけ態度を和らげてもいいとわかったのだ。

「せっかくの機会だから、聞いてもいいかな?」
「なんですか?」
「兄というものは、どういうものなのかな?」
「兄というもの?」

 そこで、アロード様は私に質問してきた。
 その質問の意味が、あまりよくわからない。兄というものがどういうものか、それをどうして私に聞くのだろうか。

「下の兄弟……弟や妹から見たら、兄はどういう存在なのか、気になっているのさ。ほら、僕は一番上のお兄さんだろう? 上に兄も姉もいないから、上の兄弟というものを持つ者の気持ちがよくわからない。だから、兄を持つ君に、少し聞いてみたいということさ」
「そういうことでしたか……」

 私がよくわかっていないことを察してくれたのか、アロード様は質問を解説してくれた。
 彼が知りたかったのは、私達から見た上の兄弟であるようだ。それを理解すれば、イルファー様の気持ちがわかると思っているのかもしれない。
 ただ、その質問は中々難しいものだった。兄がどういう存在かなど、あまり考えたことがないようなことだ。私にとって、兄というものはなんなのだろうか。
 とりあえず、私が兄に抱いている印象を語ればいいのかもしれない。それは、アロード様の質問に対する答えかどうか微妙な所である。だが、何も言わないよりはましだろう。

「……私は、兄のことを尊敬しています」
「尊敬か……イルファーと同じようなことかな?」
「確かに、イルファー様と同じような感情を持つことはあります。敵わないとか、兄の方が優秀だと思うことがない訳ではありません」
「やっぱり、そういうものなのかな……」

 私の言葉に、アロード様は少し遠い目をしていた。
 彼にとって、その事実は悲しいものだったのかもしれない。イルファー様と自分の溝が当然のものだと思ったのなら、その目も納得できる。
 だが、話は最後まで聞いてもらいたい。私は、イルファー様程屈折した思いを、兄に抱いている訳ではない。

「でも、私はイルファー様のようには思っていません。私の方が、兄より優秀なことはあると思っています」
「……そうなのかい?」
「ええ、昔は決して敵わないと思っていましたが、今はそうではありません。敵う面もあると思っています。ずっと背中を見ていますが、彼より私が完全に劣っているとは考えていません」
「……そうか」

 私の言葉で、アロード様の顔は少しだけ明るくなった。
 それは、私の考えに希望を持ったからなのだろうか。
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