わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
35 / 54

35

しおりを挟む
 私は、アロード様からイルファー様のことを聞いていた。
 彼は、単純に兄として弟のことを心配している。その事実がわかっただけで、私の彼に対する警戒は少しだけ解けていた。
 底知れなさを感じていたが、それは第一王子としての彼の姿なのだ。根本は、私達と変わらない。それが理解できて、少しだけ態度を和らげてもいいとわかったのだ。

「せっかくの機会だから、聞いてもいいかな?」
「なんですか?」
「兄というものは、どういうものなのかな?」
「兄というもの?」

 そこで、アロード様は私に質問してきた。
 その質問の意味が、あまりよくわからない。兄というものがどういうものか、それをどうして私に聞くのだろうか。

「下の兄弟……弟や妹から見たら、兄はどういう存在なのか、気になっているのさ。ほら、僕は一番上のお兄さんだろう? 上に兄も姉もいないから、上の兄弟というものを持つ者の気持ちがよくわからない。だから、兄を持つ君に、少し聞いてみたいということさ」
「そういうことでしたか……」

 私がよくわかっていないことを察してくれたのか、アロード様は質問を解説してくれた。
 彼が知りたかったのは、私達から見た上の兄弟であるようだ。それを理解すれば、イルファー様の気持ちがわかると思っているのかもしれない。
 ただ、その質問は中々難しいものだった。兄がどういう存在かなど、あまり考えたことがないようなことだ。私にとって、兄というものはなんなのだろうか。
 とりあえず、私が兄に抱いている印象を語ればいいのかもしれない。それは、アロード様の質問に対する答えかどうか微妙な所である。だが、何も言わないよりはましだろう。

「……私は、兄のことを尊敬しています」
「尊敬か……イルファーと同じようなことかな?」
「確かに、イルファー様と同じような感情を持つことはあります。敵わないとか、兄の方が優秀だと思うことがない訳ではありません」
「やっぱり、そういうものなのかな……」

 私の言葉に、アロード様は少し遠い目をしていた。
 彼にとって、その事実は悲しいものだったのかもしれない。イルファー様と自分の溝が当然のものだと思ったのなら、その目も納得できる。
 だが、話は最後まで聞いてもらいたい。私は、イルファー様程屈折した思いを、兄に抱いている訳ではない。

「でも、私はイルファー様のようには思っていません。私の方が、兄より優秀なことはあると思っています」
「……そうなのかい?」
「ええ、昔は決して敵わないと思っていましたが、今はそうではありません。敵う面もあると思っています。ずっと背中を見ていますが、彼より私が完全に劣っているとは考えていません」
「……そうか」

 私の言葉で、アロード様の顔は少しだけ明るくなった。
 それは、私の考えに希望を持ったからなのだろうか。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた

今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。 二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。 それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。 しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。 調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ

リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。 先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。 エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹? 「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」 はて、そこでヤスミーンは思案する。 何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。 また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。 最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。 するとある変化が……。 ゆるふわ設定ざまああり?です。

処理中です...