34 / 54
34
しおりを挟む
私は、第一王子のアロード様と会っていた。
とりあえず、私は彼の隣まで移動する。離れて話すより、その方がいいと思ったからだ。
近づいてわかったが、彼からは特に覇気のようなものを感じない。イルファー様のように、目に見えた恐ろしさがないのだ。
そのことが、逆に私を恐怖させていた。腹の底で色々なことを考えているかもしれない。その考えが浮かび上がってくるからだ。
「……そんなに身構えないで欲しいな。弟の婚約者に怖がられると、結構傷つくよ。別に、取って食おうと思っている訳でもないから、もっと気楽にしてもらえないかな?」
「あなたが、どういう人物か、まだ私は完全に把握できていません。それがわかれば、態度も軟化できるかもしれません」
「なるほど、まあ、それは最もなことだね。僕達は、ほぼ初対面。お互いの内面を知らなければならないということか。もしかしたら、意外と気が合うかもしれないしね」
私は、アロード様のことを把握しきれていない。そうは言ったが、これまでのやり取りで、少しだけ彼のことがわかった。
彼は、意外にもお喋りだ。私が何か聞く前から、色々と喋ってくれている。それは、私にとって少しだけありがたいことだ。
「それで、何から話すべきなのかな? ああ、一応、君の目的を聞いておいた方がいいか。君は、僕に何を求めているのかな?」
「……私は、イルファー様を助けたいと思っています。あなたと彼の関係は、拗れていると聞きましたから」
「やっぱり、そういうことだよね。ただ、それに関しては、別に僕から言えることがないというのが辛い所だ」
私の質問に、アロード様は微妙な顔をした。彼も、イルファー様との関係には困っているのだろう。
言えることがない。その言葉の意味は、なんとなくわかる。きっと、彼はイルファー様に対して、何か思っている訳ではないのだろう。
「あなたは、イルファー様に対して、何も思っていないのですか?」
「それは、少し違うね。僕は、イルファーを大切な弟だと思っている。何も思っていない訳ではないさ」
「言い方が悪かったようですね……彼のように、複雑な思いを抱いている訳ではないということですね?」
「ああ、そうだね。最も、最近のイルファーを見ていると、色々と思う所はあるさ。もっと気楽にすればいいと思ったり、余計なことを考える必要はないと思ったり、でも、イルファーと同じ思いを抱いている訳ではないね」
アロード様は、私の質問にはっきりと答えてくれた。
イルファー様のことを語る彼からは、先程感じた底知れなさが感じられない。ただの兄であるかのように見えるのだ。
恐らく、本当にただの兄として語っているのだろう。王族であるなど関係なく、彼は兄として弟のことを心配しているのだ。
とりあえず、私は彼の隣まで移動する。離れて話すより、その方がいいと思ったからだ。
近づいてわかったが、彼からは特に覇気のようなものを感じない。イルファー様のように、目に見えた恐ろしさがないのだ。
そのことが、逆に私を恐怖させていた。腹の底で色々なことを考えているかもしれない。その考えが浮かび上がってくるからだ。
「……そんなに身構えないで欲しいな。弟の婚約者に怖がられると、結構傷つくよ。別に、取って食おうと思っている訳でもないから、もっと気楽にしてもらえないかな?」
「あなたが、どういう人物か、まだ私は完全に把握できていません。それがわかれば、態度も軟化できるかもしれません」
「なるほど、まあ、それは最もなことだね。僕達は、ほぼ初対面。お互いの内面を知らなければならないということか。もしかしたら、意外と気が合うかもしれないしね」
私は、アロード様のことを把握しきれていない。そうは言ったが、これまでのやり取りで、少しだけ彼のことがわかった。
彼は、意外にもお喋りだ。私が何か聞く前から、色々と喋ってくれている。それは、私にとって少しだけありがたいことだ。
「それで、何から話すべきなのかな? ああ、一応、君の目的を聞いておいた方がいいか。君は、僕に何を求めているのかな?」
「……私は、イルファー様を助けたいと思っています。あなたと彼の関係は、拗れていると聞きましたから」
「やっぱり、そういうことだよね。ただ、それに関しては、別に僕から言えることがないというのが辛い所だ」
私の質問に、アロード様は微妙な顔をした。彼も、イルファー様との関係には困っているのだろう。
言えることがない。その言葉の意味は、なんとなくわかる。きっと、彼はイルファー様に対して、何か思っている訳ではないのだろう。
「あなたは、イルファー様に対して、何も思っていないのですか?」
「それは、少し違うね。僕は、イルファーを大切な弟だと思っている。何も思っていない訳ではないさ」
「言い方が悪かったようですね……彼のように、複雑な思いを抱いている訳ではないということですね?」
「ああ、そうだね。最も、最近のイルファーを見ていると、色々と思う所はあるさ。もっと気楽にすればいいと思ったり、余計なことを考える必要はないと思ったり、でも、イルファーと同じ思いを抱いている訳ではないね」
アロード様は、私の質問にはっきりと答えてくれた。
イルファー様のことを語る彼からは、先程感じた底知れなさが感じられない。ただの兄であるかのように見えるのだ。
恐らく、本当にただの兄として語っているのだろう。王族であるなど関係なく、彼は兄として弟のことを心配しているのだ。
2
お気に入りに追加
3,565
あなたにおすすめの小説

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。
ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。
今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、
5年経っても帰ってくることはなかった。
そして、10年後…
「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……

お姉さまに婚約者を奪われたけど、私は辺境伯と結ばれた~無知なお姉さまは辺境伯の地位の高さを知らない~
マルローネ
恋愛
サイドル王国の子爵家の次女であるテレーズは、長女のマリアに婚約者のラゴウ伯爵を奪われた。
その後、テレーズは辺境伯カインとの婚約が成立するが、マリアやラゴウは所詮は地方領主だとしてバカにし続ける。
しかし、無知な彼らは知らなかったのだ。西の国境線を領地としている辺境伯カインの地位の高さを……。
貴族としての基本的な知識が不足している二人にテレーズは失笑するのだった。
そしてその無知さは取り返しのつかない事態を招くことになる──。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?

婚約破棄された私の結婚相手は殿下限定!?
satomi
恋愛
私は公爵家の末っ子です。お兄様にもお姉さまにも可愛がられて育ちました。我儘っこじゃありません!
ある日、いきなり「真実の愛を見つけた」と婚約破棄されました。
憤慨したのが、お兄様とお姉さまです。
お兄様は今にも突撃しそうだったし、お姉さまは家門を潰そうと画策しているようです。
しかし、2人の議論は私の結婚相手に!お兄様はイケメンなので、イケメンを見て育った私は、かなりのメンクイです。
お姉さまはすごく賢くそのように賢い人でないと私は魅力を感じません。
婚約破棄されても痛くもかゆくもなかったのです。イケメンでもなければ、かしこくもなかったから。
そんなお兄様とお姉さまが導き出した私の結婚相手が殿下。
いきなりビックネーム過ぎませんか?

【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ
リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。
先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。
エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹?
「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」
はて、そこでヤスミーンは思案する。
何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。
また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。
最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。
するとある変化が……。
ゆるふわ設定ざまああり?です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる