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私は、イルファー様に言われた通り、屋上まで来ていた。
すると、一人の男性が黄昏れているのが目に入る。彼が、イルファー様の兄であるアロード様だ。
「……来たようだね」
「え?」
私が近づく前に、アロード様はこちらを向いて笑ってきた。
その言葉は、まるで私が来ることがわかっていたかのようだ。だが、私の来訪など予想できるものではないはずである。
もしかして、誰か別人と勘違いしているのだろうか。いや、それならこちらを向いた時点で、何らかの反応を示すはずである。やはり、彼は私を待っていたのだろうか。
「イルファーの私兵だったルヴィド君の姉、リルミアさんだね?」
「なっ……」
「驚いているようだね。それも、当然だろう。まさか、僕がそれを知っているなんて、君には予想できないことだろうからね……」
アロード様の言葉に、私は驚いていた。
彼は、ルヴィドがイルファー様の私兵として活動していたことを知っていた。それ所か、姉の私まで把握しているのだ。
イルファー様の口振りからして、私兵のことは誰にも把握されていないはずである。実の兄でも、それは変わらないだろう。彼が、そんな隙を見せるとは思えない。それを、何故彼は知っているのだろうか。
「ただ、こう考えれば、話は簡単かもしれないよ? イルファーが私兵を持っているなら、僕も持っている。そういう所から、情報を得た。簡単な話ではないかな?」
「それは……」
「ああ、心配しなくてもいいよ。別に、誰かに言いふらす訳でもない。ただ、少し気になっていたから調べてもらっただけさ。イルファーも知らないだろうけどね」
アロード様は、自らの私兵を使って、イルファー様の周辺を探らせていたようだ。その事実に、私は驚きを隠せない。
彼にも私兵がいることは別におかしいことではないだろう。イルファー様にいるくらいなのだから、第一王子にもいるのは自然なことである。
問題は、それをイルファー様が把握していないということだ。優秀なはずの第二王子の私兵さえ、彼の私兵は凌駕している。その事実は、とても恐ろしいことだろう。
「君が来ることは、なんとなくわかっていたよ。ルヴィド君は、イルファーのことをかなり心配してくれていたみたいだからね。婚約者となって表立って行動できる姉の君に対して、そういうことを頼むことは予想できる」
「全て、理解していたということですか?」
「そういう訳ではないさ。格好つけて言っただけで、確実に来るなんていう確証はなかったからね。ただ、そうなるとは思っていたよ」
「そうですか……」
アロード様には、底知れなさがあった。
この人を見ていると、イルファー様の気持ちも理解できてくる。敵わない。人にそう思わせる力が、この人にはあるのだ。
すると、一人の男性が黄昏れているのが目に入る。彼が、イルファー様の兄であるアロード様だ。
「……来たようだね」
「え?」
私が近づく前に、アロード様はこちらを向いて笑ってきた。
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もしかして、誰か別人と勘違いしているのだろうか。いや、それならこちらを向いた時点で、何らかの反応を示すはずである。やはり、彼は私を待っていたのだろうか。
「イルファーの私兵だったルヴィド君の姉、リルミアさんだね?」
「なっ……」
「驚いているようだね。それも、当然だろう。まさか、僕がそれを知っているなんて、君には予想できないことだろうからね……」
アロード様の言葉に、私は驚いていた。
彼は、ルヴィドがイルファー様の私兵として活動していたことを知っていた。それ所か、姉の私まで把握しているのだ。
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「ただ、こう考えれば、話は簡単かもしれないよ? イルファーが私兵を持っているなら、僕も持っている。そういう所から、情報を得た。簡単な話ではないかな?」
「それは……」
「ああ、心配しなくてもいいよ。別に、誰かに言いふらす訳でもない。ただ、少し気になっていたから調べてもらっただけさ。イルファーも知らないだろうけどね」
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「全て、理解していたということですか?」
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「そうですか……」
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