わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
31 / 54

31

しおりを挟む
 ルヴィドに言われてから数日後、私は王城を訪ねていた。
 イルファー様は、私がここに来ることを簡単に了承してくれた。婚約者が訪ねて来るというのは、普通のことなので、それは当然のことである。
 ただ、聡明な彼なら何か予測くらいはしているかもしれない。私が急に王城に行きたいと言った裏には何かある。そういう風に思っているのではないだろうか。

「奴の差し金か?」
「え?」

 客室で会ったイルファー様が最初に言ってきたのは、私に疑いをかける言葉だった。
 奴というのが、誰を指すのかなど言うまでもない。やはり、彼は私がここに来た意味を予測していたようだ。

「……はい。実は、そうなのです」
「やはりか……」

 私は、素直に頷くことにした。
 別に、隠す必要がないと思ったからだ。
 彼本人が、どう思っているのか。それを知るためには、素直に話すのが一番だろう。

「奴に伝えておけ。この私にもう二度と関わるなと。無論、今の奴として関わることは問題ではない。だが、過去の奴として関わることは許されないことだ」
「わかりました。伝えておきます」
「ふん……」

 イルファー様は、少し怒っていた。
 しかし、それは私がここに来たから怒っている訳ではないだろう。多分、ルヴィドがおせっかいをしたこと自体を怒っている訳でもない。
 恐らく、彼はルヴィドが私兵の時に得たものを使っていることに怒っているのだろう。それは、存在しない記憶である。それを使うことは、イルファー様に私兵がいたという事実を裏付けるものだ。

 彼にとって、それは死活問題だろう。王国に秘密にしている兵のことなど、知られたらまずいに決まっている。
 これは、帰って来てから、ルヴィドによく言い聞かせた方がいいのかもしれない。最も、あの弟も既にそれはわかっているだろう。今回が特別だっただけで、二度目はないはずである。

「それで、お前は奴に何を言われてきた?」
「あなたとあなたのお兄様に関する問題を、解決して欲しいと言われてきました」
「兄上との問題……ふん、そんなことはお前達に言われなくてもわかっている。それは、私自身が解決する問題だ」

 私の言葉に、イルファー様は少し語気を荒げていた。
 やはり、彼にとって、それはとても複雑な問題なのだろう。それに踏み込んでもらいたくないという気持ちはわからない訳ではない。

「でも、彼はきっとこう思っているはずです。あなたのおかげで、自分の兄弟に対する確執はなくなった。それなら、あなた自身の確執も解決するべきだと……」
「む……」

 そこで、イルファー様は言葉を詰まらせた。
 私が予測したルヴィドの心に対して、色々と思う所があったのだろう。
 普段は冷たいような態度の時もあるが、彼はルヴィドに対して色々と思っている。色々と話している内にそれがわかってきた。
 だから、弟を持ち出すのは有効的だと思った。少し意地悪だとも思うが。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた

今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。 二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。 それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。 しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。 調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

婚約破棄された私の結婚相手は殿下限定!?

satomi
恋愛
私は公爵家の末っ子です。お兄様にもお姉さまにも可愛がられて育ちました。我儘っこじゃありません! ある日、いきなり「真実の愛を見つけた」と婚約破棄されました。 憤慨したのが、お兄様とお姉さまです。 お兄様は今にも突撃しそうだったし、お姉さまは家門を潰そうと画策しているようです。 しかし、2人の議論は私の結婚相手に!お兄様はイケメンなので、イケメンを見て育った私は、かなりのメンクイです。 お姉さまはすごく賢くそのように賢い人でないと私は魅力を感じません。 婚約破棄されても痛くもかゆくもなかったのです。イケメンでもなければ、かしこくもなかったから。 そんなお兄様とお姉さまが導き出した私の結婚相手が殿下。 いきなりビックネーム過ぎませんか?

処理中です...