30 / 54
30
しおりを挟むイルファー様を見送った後、私はルヴィドと話すことになった。何か話したいことがあるらしいのだ。
話す場所は、私の部屋になった。誰にも聞かれたくない話であるらしく、個室で話すことになったのだ。
「それで、ルヴィドは何を話したいの?」
「……これは、姉さん以外には話せないことだ。耳を貸し貰えるかい?」
「耳……わかったわ」
ルヴィドは、私の傍に寄ってきた。
どうやら、外に漏れないように小声で話すつもりらしい。
それだけ聞かれたくないと思っているという事実から、ある程度内容は予測である。
恐らく、彼はイルファー様の私兵だった時に関する話をしようとしているのだ。それは、他の人には絶対に聞かれてはいけないことである。この対応にも、頷けるものだ。
「実は、イルファー様のことで姉さんに頼みたいことがあるんだ」
「イルファー様のこと? 何かしら?」
私の予想通り、ルヴィドは私兵だった時に関することを話し始めた。
だが、その内容は少し意外である。彼に関する頼みごとは、一体どういうことなのだろうか。
「イルファー様は、とても聡明なお方だ。だけど、あの人にはある悩み……というか、コンプレックスというのだろうか。そういうものがあるんだ」
「……もしかして、お兄様とのこと?」
「ああ、知っていたんだね? それなら、話が早いかな?」
ルヴィドの話は、先程イルファー様から聞いたことだった。
兄との確執のようなもの。それを、ルヴィドは解決して欲しいのだろう。
「イルファー様は、自分を兄に劣る存在だと思っている。それ自体が、悪いことという訳ではないだろう。でも、本人とすれ違っていることは問題だと思うんだ」
「本人?」
「第一王子のアロード様さ。彼本人は、イルファー様との間にある壁に悩んでいるようなんだ」
「アロード様……」
どうやら、イルファー様は兄であるアロード様とすれ違っているようだ。
私は、アロード様が具体的にどのような人物かはあまり知らない。だが、弟の口振りからして、弟とわかり合いたいと思っているような人物であるようだ。
優しい人なのだろうか。いや、弟思いな人なのかもしれない。よくわからないが、悪い人ではないことは確かだろう。
「とにかく、姉さんには二人の間にある確執をなんとかして欲しいんだ」
「なんとか? 私が?」
「ああ、このまま決定的にすれ違っていると、いいことにはならない。その前に、姉さんに止めてもらいたいんだ」
ルヴィドの言葉に、私は少し悩む。
もちろん、イルファー様にはお世話になったし、できる限りのことはしてあげたい。だが、そのようなおせっかいをしていいのだろうか。
「とりあえず、一度王城に行ってみたくれないかな? 婚約者である姉さんなら、あそこに普通に行ける。そこで、アロード様と会えば、色々と理解できると思うよ」
「え、ええ……」
とりあえず、私は王城に行くことにした。
弟に押し切られたというのもあるが、一旦様子を見てみようと思ったのだ。
1
お気に入りに追加
3,565
あなたにおすすめの小説
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです
風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。
婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。
そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!?
え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!?
※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。
※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。
ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。
今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、
5年経っても帰ってくることはなかった。
そして、10年後…
「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる