わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

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 私は、イルファー様と話し合っていた。
 最初は軽い気持ちで聞いていた話だったが、意外にもそれは重要な話に繋がっていた。
 私は、彼の内面に触れている。その複雑な内面の一部を、知ることができているのだ。
 だから、私は気持ちを切り替えて、真剣に聞いている。イルファー様の気持ちを、きちんと知っておきたいからだ。

「私にも、兄が一人いる」
「第一王子のアロード様ですね?」
「ああ……」

 イルファー様には、アロード様という兄がいる。この国の第一王子で、次期国王筆頭と呼ばれている人物だ。
 そこまで知っている訳ではないが、とても優秀な人物であるらしい。文武両道で性格もいい。本当かどうかはわからないが、そういう評判はよく聞いている。

「兄上は、素晴らしい人物だ。誇り高く、私などでは到底太刀打ちできない人物だ」
「イルファー様が……?」

 イルファー様の言葉に、私は驚いていた。
 目の前にいる第二王子が、とても優秀な人間であることは明白である。今まで接してきて、それはわかっていることだ。
 そんな人物の口から、太刀打ちできないとまで評されている。第一王子の評判を知っていても、それは衝撃的なことだった。

「そんな兄に、私は憧れていた。兄のようにならなければならない。そのような思いがあったのだ。お前の弟と同じように」
「ルヴィドと?」
「優秀な兄や姉を見ていると、そう思うものなのだ。お前にも兄がいるだろう? そういう覚えがない訳ではないだろう?」
「それは……確かに、そうかもしれません」

 私にも、一人兄がいる。彼に対して、私もイルファー様のような感情がなかったという訳ではない。
 だから、イルファー様の心情は納得できた。同時に、ルヴィドがそういう感情を抱いているということも。

「私は共感していたのだ。ルヴィドの感情に……いや、それだけではないな。レルミアにも、私は共感していたのかもしれない」
「レルミアにも?」
「お前の妹も、お前に対して羨望を感じていた。少なくとも、私はそう思っている。お前のようになりたいと思いながら、それができなかった自分を惨めに思い、お前に当たっていた。迷惑な話だろうが、そういうことだっただろう」
「そんな……」

 イルファー様は、ルヴィドやレルミアに共感していたようだ。
 だから、あそこまで親身になった。それは、とても意外なことである。
 彼にも、人間として弱い部分があった。そんな当たり前のことに、私は驚いてしまっているのだ。
 レルミアの感情も、驚くべきものだった。そんなことを思っていたなど、私が考えもしなかったことである。
 この一瞬だけで、私は様々な感情を知った。当たり前のことかもしれないが、人の心とは中々複雑なものであるようだ。
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