20 / 54
20
しおりを挟む
私は、イルファー様とルヴィドにこの家の事情を話していた。
全てを聞き終えてから、イルファー様はゆっくりとルヴィドに目を向ける。その視線は、少し厳しいものだ。
「ルヴィド、お前がした行為が、どういうものに繋がったかは理解できたか?」
「はい……理解できました」
「今まで目を逸らし続けてきたことを実感して、お前は何を思っている?」
「僕は……」
イルファー様がやることができたと言っていた理由が、私は今やっとわかった。
彼がやるべきこととは、この弟との話だったのだ。
恐らく、ルヴィドはずっと私達についていたのだろう。だから、あの妹の現状を目撃してしまった。それが、イルファー様が戻ってきたきっかけだったのだ。
「私は、お前がこの家の現状を知ろうとしないことに対して、特に何か言うつもりはなかった。お前は優秀な部下でしかなかったからだ。成果を持って来れば、それ以外のことなどお前に求めるつもりはなかった。そもそも、私には関わりがないことだからな」
「はい……」
「だが、今回、お前はそれを知ってしまった。この俺の傍を離れないという任を守ったために、お前はこの家の現状を知ることになった。それにより、お前が何を考えたかは聞いておかなければならないだろう」
「……わかっています」
イルファー様の言葉を聞いて、私は自分の考えに確信を持った。
今回、偶然妹がやって来なければ、彼は普通に帰っていたのだろう。特にルヴィドのことを気にすることもなく、過ごしていたはずである。
イルファー様は、割り切っていているのだ。ルヴィドは、ただの部下。その個人的な考えに踏み込むつもりはないし、興味もない。そのように考える人なのだろう。
だが、それを知ったからには、きちんと対応する。ただ、それだけのことだったのだろう。
「この家に戻りたいか?」
「それは……戻れるものなら、戻りたいと思っています。しかし、今の僕は取り返しがつかないようなことを……」
「それが、どうしたというのだ?」
「え?」
イルファー様の問いかけに、弟は動揺していた。
彼の心情は理解できる。色々と人に言えないことをしてしまったため、この家に帰って来られない。そう考えることは、別におかしいことではないだろう。
しかし、それが本当の理由なのかということは、私も疑問に思っていたことだ。今の弟を見ていると、それが本当の理由であるとはどうしても思えないのである。
「結局、お前はそれを言い訳にしているだけだ。単純に、この家に帰ってくるのが怖いのだろう? それを隠すために、その言葉を述べているのだ。それを、お前は恥だとは思わないのか?」
「それは……」
私の考えていることの答えを、イルファー様が言ってくれた。
ルヴィドは、言い訳を作っていただけなのである。自分の恐怖心を隠すために、都合がいい言い訳に頼っていたのだ。
それを、イルファー様はわかっていた。弟の弱い部分は、主にしっかりと見抜かれていたのである。
全てを聞き終えてから、イルファー様はゆっくりとルヴィドに目を向ける。その視線は、少し厳しいものだ。
「ルヴィド、お前がした行為が、どういうものに繋がったかは理解できたか?」
「はい……理解できました」
「今まで目を逸らし続けてきたことを実感して、お前は何を思っている?」
「僕は……」
イルファー様がやることができたと言っていた理由が、私は今やっとわかった。
彼がやるべきこととは、この弟との話だったのだ。
恐らく、ルヴィドはずっと私達についていたのだろう。だから、あの妹の現状を目撃してしまった。それが、イルファー様が戻ってきたきっかけだったのだ。
「私は、お前がこの家の現状を知ろうとしないことに対して、特に何か言うつもりはなかった。お前は優秀な部下でしかなかったからだ。成果を持って来れば、それ以外のことなどお前に求めるつもりはなかった。そもそも、私には関わりがないことだからな」
「はい……」
「だが、今回、お前はそれを知ってしまった。この俺の傍を離れないという任を守ったために、お前はこの家の現状を知ることになった。それにより、お前が何を考えたかは聞いておかなければならないだろう」
「……わかっています」
イルファー様の言葉を聞いて、私は自分の考えに確信を持った。
今回、偶然妹がやって来なければ、彼は普通に帰っていたのだろう。特にルヴィドのことを気にすることもなく、過ごしていたはずである。
イルファー様は、割り切っていているのだ。ルヴィドは、ただの部下。その個人的な考えに踏み込むつもりはないし、興味もない。そのように考える人なのだろう。
だが、それを知ったからには、きちんと対応する。ただ、それだけのことだったのだろう。
「この家に戻りたいか?」
「それは……戻れるものなら、戻りたいと思っています。しかし、今の僕は取り返しがつかないようなことを……」
「それが、どうしたというのだ?」
「え?」
イルファー様の問いかけに、弟は動揺していた。
彼の心情は理解できる。色々と人に言えないことをしてしまったため、この家に帰って来られない。そう考えることは、別におかしいことではないだろう。
しかし、それが本当の理由なのかということは、私も疑問に思っていたことだ。今の弟を見ていると、それが本当の理由であるとはどうしても思えないのである。
「結局、お前はそれを言い訳にしているだけだ。単純に、この家に帰ってくるのが怖いのだろう? それを隠すために、その言葉を述べているのだ。それを、お前は恥だとは思わないのか?」
「それは……」
私の考えていることの答えを、イルファー様が言ってくれた。
ルヴィドは、言い訳を作っていただけなのである。自分の恐怖心を隠すために、都合がいい言い訳に頼っていたのだ。
それを、イルファー様はわかっていた。弟の弱い部分は、主にしっかりと見抜かれていたのである。
23
お気に入りに追加
3,565
あなたにおすすめの小説
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです
風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。
婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。
そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!?
え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!?
※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。
※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。
ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。
今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、
5年経っても帰ってくることはなかった。
そして、10年後…
「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?

【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ
リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。
先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。
エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹?
「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」
はて、そこでヤスミーンは思案する。
何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。
また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。
最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。
するとある変化が……。
ゆるふわ設定ざまああり?です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる