わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

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 私は、イルファー様とともに客室に戻って来ていた。
 帰る予定が変わったことで、屋敷は少し騒がしくなっている。だが、他に大事な客人が来る予定もなかったので、そこまで問題ではないはずだ。
 その騒ぎは、イルファー様にとって都合がいいものであるらしい。誰かに聞かれることなく、客室で話すことができるからだそうだ。

「さて、お前に話があると言ったが、もう一人私の話を聞くべき男がいる。まずは、そいつに出てきてもらうとしよう」
「え?」

 イルファー様の言葉に応えるように、部屋の隅から一人の男が現れた。
 弟のルヴィドである。どうやら、この部屋に潜んでいたようだ。

「僕のことですよね……?」
「ああ、お前のことだ。今回の話は、お前が聞かなければならない話だ。それは、お前も理解しているな?」
「はい……わかっています」

 ルヴィドは、イルファー様の傍で跪いていた。
 その表情は、少し暗い。これから言われることは、明るいことではないのだろう。
 流れから考えて、これから話されるのは恐らく、妹のことだ。その原因の一端である弟は、責任を感じているのかもしれない。

「あの妹が歪んだ原因を、お前は理解しているか?」
「……僕が家を出たから、ということですね?」
「ああ、そういうことだ。お前がいなくなったことで、この家は随分と変わったようだ。その事情について、話してもらえるか?」
「え? あ、はい……」

 イルファー様は、私に説明を求めてきた。
 大方、彼は事情をわかっている気がする。その態度から、なんとなくそう思うのだ。
 ただ、どちらにしても、当事者である私が話した方がいいということは明白である。とりあえず、簡単に事情を説明するとしよう。

「ルヴィドが家出してから、この家は変わったわ。お父様とお母様は、厳しい教育をやめることにした。最も、私やお兄様は既にその教育が身に染みていたから、特に変わることはなかったけど……」
「彼女は……」
「ええ、レルミアは変わってしまったわ。彼女は、まだ正式に教育が始まっていなかったもの。それまでも、それなりに厳しく躾けられていたけど、それは普通の家庭とそこまで変わらないものだったと思うわ」

 私は、ルヴィドに事情を説明しておく。
 その表情から考えると、彼はこのことをまったく知らなかったようだ。
 家出してから、フォルフィス家のことを聞かないようにしていたのだろう。なんとなく、その心中は察することができる。

「教育を受けなかった彼女は、それから甘やかされることになった。あなたがいなくなったことへの後悔を、二人はあの子に注いだのね。その結果、レルミアはわがままになっていった。叱れることもなく育ったから、あのようになってしまったのよ」
「そういう……ことだったんだね」

 私の説明に、弟は苦い顔をしていた。
 そこにあるのは、後悔の念なのだろう。
 確かに、彼が家出をしなければ、このようなことにはならなかった。成長した今の彼が、その責任を感じてもおかしくはないだろう。
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