わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
18 / 54

18

しおりを挟む
 私とイルファー様は、レルミアの前にいた。
 突如現れた妹は、イルファー様と婚約したいと言った。グランダ様と同じように、私から婚約者を奪おうとしたのだ。
 当然、イルファー様はそれを受け入れなかった。そのような愚かな提案を、彼が受け入れるはずがないのである。
 だが、その口から出たのは怒りの言葉ではない。同情の言葉である。その言葉の意図がわからなくて、私もレルミアも少し困惑していた。

「行くぞ」
「え? あ、え?」

 困惑する私に対して、イルファー様は言葉をかけていた。
 私の返答も聞かず、彼は歩き始める。仕方ないので、私もそれに追従することにする。

「イルファー様? その……レルミアは」
「気にするな」
「気にするな? え? まあ、別に……気にしたいとも思っていなので、それでも構いませんが……」

 イルファー様は、レルミアにもう何も言う気がなかった。
 もしかして、妹の言葉に呆れてしまったのだろうか。それで、何も言う気がなくなったというのは、かなりまずいことなのかもしれない。
 あのグランダ様に対して、イルファー様は更生することを願っていた。しかし、妹にはそれを願うことすらなかったのだ。
 ということは、レルミアはもう取り返しがつかないということなのだろうか。家族として、それは中々複雑である。

「待ってください!」
「レルミア……」
「振り向くな」

 当然、素通りされたレルミアは、私達を引き止めようとした。
 その言葉に、私は振り返りそうになったが、それは止められた。どうやら、イルファー様は徹底的に妹を無視するつもりのようだ。
 そこまですることには、何か意味があるのかもしれない。もしかしたら、それがあの妹に対して一番効果的なのだろうか。

「イルファー様……これは?」
「奴の言葉を取り合うことは無駄だ。あの妹は、人の気を引くために、あのようなことをしているのだからな」
「人の気を引くために? どういうことですか?」
「私に対して婚約を持ちかければ、私もお前も反応すると思ったのだろう。奴が見たいのは、その反応なのだ。結果はどちらでもいい。奴は、自分に注目してもらえれば、それで満足なのだ」

 少し歩いてから、私はイルファー様に質問していた。
 やはり、彼は何か意図があって、レルミアを無視していたようだ。
 だが、その言葉はあまり飲み込めない。あの妹の行為が、人の気を引くためとは、にわかには信じられないのだ。
 そんな子供の悪戯のような考えで、あの妹はわがままを言っているということなのだろうか。あまり、信じられないようなことである。

「さて、もう少しやることができたな……先程の客室はまだ使えるか?」
「え? 使えますけど……」
「ならば、そこに戻るぞ。お前に……いや、お前だけではないが、色々と話がある」
「は、はい……」

 イルファー様は、帰ることを取りやめていた。
 どうやら、まだ何か話したいことがあるらしい。
 こうして、私とイルファー様は妹を避けて、客室に戻るのだった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

婚約破棄していただき、誠にありがとうございます!

風見ゆうみ
恋愛
「ミレニア・エンブル侯爵令嬢、貴様は自分が劣っているからといって、自分の姉であるレニスに意地悪をして彼女の心を傷付けた! そのような女はオレの婚約者としてふさわしくない!」 「……っ、ジーギス様ぁ」  キュルルンという音が聞こえてきそうなくらい、体をくねらせながら甘ったるい声を出したお姉様は。ジーギス殿下にぴったりと体を寄せた。 「貴様は姉をいじめた罰として、我が愚息のロードの婚約者とする!」  お姉様にメロメロな国王陛下はジーギス様を叱ることなく加勢した。 「ご、ごめんなさい、ミレニアぁ」 22歳になる姉はポロポロと涙を流し、口元に拳をあてて言った。 甘ったれた姉を注意してもう10年以上になり、諦めていた私は逆らうことなく、元第2王子であり現在は公爵の元へと向かう。 そこで待ってくれていたのは、婚約者と大型犬と小型犬!? ※過去作品の改稿版です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるく、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観や話の流れとなっていますのでご了承ください。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた

今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。 二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。 それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。 しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。 調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

婚約破棄された私の結婚相手は殿下限定!?

satomi
恋愛
私は公爵家の末っ子です。お兄様にもお姉さまにも可愛がられて育ちました。我儘っこじゃありません! ある日、いきなり「真実の愛を見つけた」と婚約破棄されました。 憤慨したのが、お兄様とお姉さまです。 お兄様は今にも突撃しそうだったし、お姉さまは家門を潰そうと画策しているようです。 しかし、2人の議論は私の結婚相手に!お兄様はイケメンなので、イケメンを見て育った私は、かなりのメンクイです。 お姉さまはすごく賢くそのように賢い人でないと私は魅力を感じません。 婚約破棄されても痛くもかゆくもなかったのです。イケメンでもなければ、かしこくもなかったから。 そんなお兄様とお姉さまが導き出した私の結婚相手が殿下。 いきなりビックネーム過ぎませんか?

処理中です...