わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

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 私とイルファー様は、突然現れたグランダ様が逃げた後、再び廊下を歩いていた。
 彼が反省したかどうかはわからない。だが、できれば、これに懲りてまともな人間に生まれ変わってもらいたいものである。

「む?」
「あっ……」

 そんな私達は、前方から歩いてくる一人の少女に気がついた。
 その顔を見て、私はとても嫌な気分になる。できれば、会いたくなかったからだ。

「イルファー様、突然申し訳ありません。私は、レルミア・フォルフィスと申します」
「レルミア……ほう。お前が、噂の妹か」
「噂? それは、よくわかりませんが、私は確かにそちらのリルミアの妹です」

 レルミアは、イルファー様に話しかけていた。
 その表情は、取り繕っているものだ。人当たりの良い笑顔を作ることができるのが、この妹の厄介な所である。
 なんとなく、妹が何をしに来たかはわかっている。十中八九、私の邪魔をしに来たのだ。その方法はわからないが、とても面倒なことになることは確かだろう。

「イルファー様、お姉様は少し堅苦しい人だとは思いませんか?」
「ほう? それは、どういう意味だ?」
「その人は、利己的な人間です。あなたとの婚約についても、大方フォルフィス家の利益になるからという理由だけで決めたものでしょう」
「それが、なんだというのだ?」

 イルファー様に対して、レルミアは色々と語っていた。
 その内容は、私への批判である。その批判から、どのような言葉に繋がるかは大方予想できる。
 恐らく、この愚かなる妹は、グランダ様と同じように、イルファー様も私から奪うつもりなのだ。

「私は、そういう冷徹な人間ではありません。あなたを愛して、あなたに寄り添って行けると思います」
「……つまり、何が言いたい?」
「お姉様と婚約破棄して、私と婚約して頂けませんか?」

 レルミアの言葉に、イルファー様は眉一つ動かさなかった。
 その愚かな提案を、彼が受け入れるとは到底思えない。グランダ様ならともかく、この人が妹の言葉を受け入れるはずがないだろう。
 もしかしたら、先程と同じく、怒るかもしれない。そう思って、私は少し身構える。

「……哀れな奴だ」
「え?」

 しかし、イルファー様は怒らなかった。
 その口から出たのは、同情するような言葉である。
 その言葉に、レルミアは目を丸くしている。まさか、同情されるとは思っていなかったのだろう。
 私も、その言葉には驚いている。あの愚かな妹に対して、同情するとは思っていなかった。イルファー様は、何を考えているのだろうか。
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