わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
15 / 54

15

しおりを挟む
 私の婚約者であるイルファー様は、元婚約者であるグランダ様に怒っていた。
 彼の稚拙な言動に、怒りを感じているのだ。最も、グランダ様は、婚約者の前で言い寄ったのが問題だと考えているようだが。

「……先程から聞いていたが、お前には信念というものがない」
「し、信念?」
「己が一度決断したことには、責任が伴う。お前が婚約破棄したことも、婚約したことにも責任が伴っているということを何故理解することができない」

 イルファー様は、明らかに侮蔑した視線をグランダ様に向けていた。
 確かに、彼はとても愚かである。そのような視線を向けられても、仕方ないだろう。
 だが、少しだけ私は同情していた。イルファー様のその視線が、隣にいる私ですらわかる程、怖かったからだ。
 自業自得とはいえ、こんな視線は絶対に向けられたくないものである。その一点だけは、同情できるだろう。最も、助ける気はさらさらないが。

「僕は、被害者だ……レルミアが、あんな子だとわかっていたら、婚約破棄なんてしなかった!」
「違う。お前は婚約破棄という方法を取った時点で、二つのものを背負わなければならなかった。元婚約者への懺悔と現婚約者への誓いを、背負わなければならなかったのだ。それを背負えなかったお前に、現婚約者を蔑む資格など、ありはしない」
「うぐっ……!」

 イルファー様は、グランダ様の胸倉を掴んでいた。
 彼がかける言葉は、怒りの感情に身を任せたような罵倒ではなかった。グランダ様がどうするべきだったのか。イルファー様はそれを示しているのだ。

 彼は、とても優しい人なのだろう。だからこそ、グランダ様の根性を叩き直そうとしているのだ。彼の間違いを正して欲しいから、事実をきちんと突き付けているのである。
 それで、グランダ様が変わるかどうかはわからない。しかし、その間違いを突きつけることに意味がない訳ではないだろう。

「その腐り切った性根を叩き直さなければ、お前はまた同じ間違いを犯すだろう。婚約だけのことを言っているのではない。全ての事柄において、お前は間違いを起こす。それは、お前の勝手でしかない。私には関係ないことだ」
「ぐっ……」
「故に、後はお前自身で判断するがいい。反省するも、反省しないもお前の自由だ」

 それだけ言って、イルファー様はグランダ様の胸倉を離した。
 グランダ様は、顔を歪めている。悔しいのか悲しいのか、よくわからない表情だ。

「くそっ!」

 最後に彼が放ったのは、誰にかけたかもわからない叫びだった。
 それだけ言って、グランダ様は去って行ったのだった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...