わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

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 私は、イルファー様かあら弟のルヴィドのことを聞いていた。
 家出した弟と、イルファー様の出会い。まずは、そこから聞いているのだ。

「だが、奴との出会いに特筆したことはない。ただ単に、街道にいた奴を拾っただけに過ぎない」
「街道ですか?」
「ああ、どこを目指していたかは知らないが、奴は街道で倒れていた。それを私が保護した。それだけのことだ」

 二人の出会いは、そこまで特別なものではなかった。
 街道で倒れていたルヴィドを、イルファー様が拾う。その出来事は、日常であり得る出来事である。
 しかし、そこから弟は非日常的な世界に足を踏み入れることになったのだ。そこから、何かあったということだろう。

「無論、奴の素性はすぐに判明した。届け出も出されていた故、私は奴を帰すつもりだった。だが、理由も聞かずというのは、少し酷だと思った。だから、聞いてやったのだ。その行動の理由を」
「行動の理由……」

 ルヴィドが家出をしたのは、フォルフィス家の厳しい教育に耐え切れなかったからだ。
 今はどうかわからないが、当時の弟には家に帰るという選択肢は取りたくないものだっただろう。イルファー様の質問に、何を言ったかはわからないが、内容は大体想像できる。

「話を聞き終わってから、俺はある話を持ち掛けた。その話に、奴は乗ってきた。乗らざるを得なかったという方が正しいかもしれないがな……」
「乗らざるを得なかった? それは……」

 イルファー様が持ち掛けたのは、自分の私兵とならないかということだろう。
 それに、ルヴィドは乗らざるを得なかった。その言葉の意味を、私は考える。
 捜索願まで出ているルヴィドは、この国で普通に生きていくことは難しい。見つかって、家に連れ戻される可能性が高いからだ。

 家に帰ると、またあの教育を受けさせられる。当然、弟はそのように考えただろう。
 そんな彼にとって、イルファー様の私兵となることは一番いい選択だったのかもしれない。人に知られてはいけない私兵として動けば、身を隠せる。そのように考えたのだろう。

 それは、明らかに浅はかな考えだ。
 だが、当時の弟はまともな精神状態ではなかった。イルファー様の提案に頷いても、まったくおかしくはないだろう。

「……それが、俺と奴との道筋だ。お前の知りたかったことが、あったかはわからんが、これで構わないか?」
「ええ、ありがとうございます……」

 イルファー様の話は、そこで終わった。
 これ以上、詳しくは話せないということだろう。
 だが、大方は理解できた。ルヴィドは、家に帰りたくない一心で、第二王子の私兵となったのだろう。
 その選択が、彼にとって正しいものだったかどうかは、今となってはわからない。ただ、生きてまた会えたのだから、今はそれでいいとしておこう。
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