12 / 54
12
しおりを挟む
私は、イルファー様かあら弟のルヴィドのことを聞いていた。
家出した弟と、イルファー様の出会い。まずは、そこから聞いているのだ。
「だが、奴との出会いに特筆したことはない。ただ単に、街道にいた奴を拾っただけに過ぎない」
「街道ですか?」
「ああ、どこを目指していたかは知らないが、奴は街道で倒れていた。それを私が保護した。それだけのことだ」
二人の出会いは、そこまで特別なものではなかった。
街道で倒れていたルヴィドを、イルファー様が拾う。その出来事は、日常であり得る出来事である。
しかし、そこから弟は非日常的な世界に足を踏み入れることになったのだ。そこから、何かあったということだろう。
「無論、奴の素性はすぐに判明した。届け出も出されていた故、私は奴を帰すつもりだった。だが、理由も聞かずというのは、少し酷だと思った。だから、聞いてやったのだ。その行動の理由を」
「行動の理由……」
ルヴィドが家出をしたのは、フォルフィス家の厳しい教育に耐え切れなかったからだ。
今はどうかわからないが、当時の弟には家に帰るという選択肢は取りたくないものだっただろう。イルファー様の質問に、何を言ったかはわからないが、内容は大体想像できる。
「話を聞き終わってから、俺はある話を持ち掛けた。その話に、奴は乗ってきた。乗らざるを得なかったという方が正しいかもしれないがな……」
「乗らざるを得なかった? それは……」
イルファー様が持ち掛けたのは、自分の私兵とならないかということだろう。
それに、ルヴィドは乗らざるを得なかった。その言葉の意味を、私は考える。
捜索願まで出ているルヴィドは、この国で普通に生きていくことは難しい。見つかって、家に連れ戻される可能性が高いからだ。
家に帰ると、またあの教育を受けさせられる。当然、弟はそのように考えただろう。
そんな彼にとって、イルファー様の私兵となることは一番いい選択だったのかもしれない。人に知られてはいけない私兵として動けば、身を隠せる。そのように考えたのだろう。
それは、明らかに浅はかな考えだ。
だが、当時の弟はまともな精神状態ではなかった。イルファー様の提案に頷いても、まったくおかしくはないだろう。
「……それが、俺と奴との道筋だ。お前の知りたかったことが、あったかはわからんが、これで構わないか?」
「ええ、ありがとうございます……」
イルファー様の話は、そこで終わった。
これ以上、詳しくは話せないということだろう。
だが、大方は理解できた。ルヴィドは、家に帰りたくない一心で、第二王子の私兵となったのだろう。
その選択が、彼にとって正しいものだったかどうかは、今となってはわからない。ただ、生きてまた会えたのだから、今はそれでいいとしておこう。
家出した弟と、イルファー様の出会い。まずは、そこから聞いているのだ。
「だが、奴との出会いに特筆したことはない。ただ単に、街道にいた奴を拾っただけに過ぎない」
「街道ですか?」
「ああ、どこを目指していたかは知らないが、奴は街道で倒れていた。それを私が保護した。それだけのことだ」
二人の出会いは、そこまで特別なものではなかった。
街道で倒れていたルヴィドを、イルファー様が拾う。その出来事は、日常であり得る出来事である。
しかし、そこから弟は非日常的な世界に足を踏み入れることになったのだ。そこから、何かあったということだろう。
「無論、奴の素性はすぐに判明した。届け出も出されていた故、私は奴を帰すつもりだった。だが、理由も聞かずというのは、少し酷だと思った。だから、聞いてやったのだ。その行動の理由を」
「行動の理由……」
ルヴィドが家出をしたのは、フォルフィス家の厳しい教育に耐え切れなかったからだ。
今はどうかわからないが、当時の弟には家に帰るという選択肢は取りたくないものだっただろう。イルファー様の質問に、何を言ったかはわからないが、内容は大体想像できる。
「話を聞き終わってから、俺はある話を持ち掛けた。その話に、奴は乗ってきた。乗らざるを得なかったという方が正しいかもしれないがな……」
「乗らざるを得なかった? それは……」
イルファー様が持ち掛けたのは、自分の私兵とならないかということだろう。
それに、ルヴィドは乗らざるを得なかった。その言葉の意味を、私は考える。
捜索願まで出ているルヴィドは、この国で普通に生きていくことは難しい。見つかって、家に連れ戻される可能性が高いからだ。
家に帰ると、またあの教育を受けさせられる。当然、弟はそのように考えただろう。
そんな彼にとって、イルファー様の私兵となることは一番いい選択だったのかもしれない。人に知られてはいけない私兵として動けば、身を隠せる。そのように考えたのだろう。
それは、明らかに浅はかな考えだ。
だが、当時の弟はまともな精神状態ではなかった。イルファー様の提案に頷いても、まったくおかしくはないだろう。
「……それが、俺と奴との道筋だ。お前の知りたかったことが、あったかはわからんが、これで構わないか?」
「ええ、ありがとうございます……」
イルファー様の話は、そこで終わった。
これ以上、詳しくは話せないということだろう。
だが、大方は理解できた。ルヴィドは、家に帰りたくない一心で、第二王子の私兵となったのだろう。
その選択が、彼にとって正しいものだったかどうかは、今となってはわからない。ただ、生きてまた会えたのだから、今はそれでいいとしておこう。
22
お気に入りに追加
3,565
あなたにおすすめの小説
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

貴族の爵位って面倒ね。
しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。
両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。
だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって……
覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして?
理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの?
ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で…
嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~
ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。
そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。
自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。
マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――
※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。
※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))
書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m
※小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる