わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

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 賭けに勝ったイルファー様は、私を見て笑った。
 その寒気を覚える邪悪な笑みは、何を意味しているのだろうか。

「どうしたのですか? イルファー様?」
「お前に、一つ提案したいことがある」
「提案?」
「ああ、私と婚約しないか?」
「え?」
「は?」

 イルファー様の言葉に、私は驚いた。
 私だけではなく、ルヴィドまで驚いているくらいだ。
 賭けに勝った彼は、その提案をする必要がないはずである。急に、何を言い出しているのだろうか。

「何を言っているのでしょうか?」
「私がフォルフィス家を評価しているのは、素直な気持ちだ。先程言ったことも、心に無い言葉という訳ではない」
「ですが……」
「もちろん、それだけで決めた訳ではない。私が判断したのは、お前が私の提案を断ったからだ」
「え?」

 イルファー様が言葉を続けても、あまり頭に入って来ない。
 彼は、何を言っているのだろうか。私が提案を断ったのに、どうして提案しようと思うことになるのだろうか。

「私は、私の言葉に何も疑問を抱かないような愚者を妻にしたいとは思わない。私の言葉を聞き、自身で判断できる者を妻にしたいと思っている。お前は、それに最適だ」
「最適……先程の判断が、それに繋がるということですか?」
「ああ、そういうことだ。私は、私の言葉を断ったからこそ、お前を婚約者にしたいと思っている」

 そこまで聞いて、私はやっとイルファー様の判断を理解することができた。
 彼は、自分の言葉に素直に乗るような人を求めていないのだ。
 あくまで、自己判断して、結論を出せるような人間を求めているのである。中々、厄介な心中をしているようだ。

「……今度の言葉には、嘘はなさそうですね?」
「ふっ……それは、どうかな?」
「そういう風にはぐらかされると、逆に真実だと思えてしまいます。イルファー様は、少し天邪鬼であるようですから」
「ほう? わかってきたか」

 私とイルファー様は、笑い合った。
 もしかしたら、私は今とても人に見せられるような笑みをしていないかもしれない。
 私も、彼の考え方を面白いと思ってしまっている。彼との婚約に、フォルフィス家の利益があるということとは別に、この人の提案に乗りたいと思う自分がいるのだ。
 結局、私も酔狂なのかもしれない。だが、それもいいだろう。平凡であるよりは、その方が面白そうだ。

「……わかりました。あなたの話に乗らせていただきます」
「そう言うと思っていた。これから、よろしく頼むぞ」
「ええ、こちらこそ」

 私は、イルファー様の手を取った。
 彼との婚約は、フォルフィス家の利益になるだろう。
 だが、何より、私の人生にとても刺激的な何かをもたらしてくれる気がする。
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