わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

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 イルファー様が、私に婚約を持ち掛けてきたのは、ルヴィドへの褒美のためだった。
 この弟は、出て行っても、フォルフィス家のために尽くそうとしていたようだ。
 だが、その気持ちがあっても、戻って来られない程、弟は色々なことをしてきたらしい。
 その事実に、私は悲しくなってくる。遠い存在になってしまった弟に、私は何も言うことができない。

「……ルヴィドの提案に、私は乗ることにした。だが、私はお前が素直に婚約に乗って来るとは考えていなかった」
「どういうことですか?」
「フォルフィス家は、厳しい教育をする家として有名だ。そんな家に生まれた者が、私のこの唐突な要求になんの疑いも持たないとは考えにくかったのだ」

 そこで、イルファー様が話を再開した。
 彼がフォルフィス家を買っていたことは、事実だったようだ。フォルフィス家の人間なら、自分の要求に疑問を持つ。そう思っていたらしい。
 事実、私は彼の要求に疑問を持った。彼の予想が、的中したのである。

「そこで、私は賭けたのだ。もし、お前が私の提案に乗ったのなら、ルヴィドが姿を現し、全ての事情を話すと」
「結果的に、僕は賭けに負けた。やはり、あの教育を最後まで受けた姉さんはすごいよ。僕はてっきり、何も疑わずに王子の要求を受け入れると思っていた。まだまだ、予測が甘いみたいだ」

 二人の賭けとは、私が素直に頷くかどうかを賭けたものだった。
 イルファー様が賭けに勝ったら、ルヴィドが姿を現す。ルヴィドが賭けに勝ったら、私とイルファー様がそのまま婚約する。大方、そのような約束だったのだろう。
 私は、心から彼の要求を疑って良かったと思う。そのおかげで、数年振りに弟と再会できたのだから。

「賭けに勝って、私は非常に満足している。このようなことで婚約を決めるというのも面白いが、流石にもう少し考えたいとも思っていたからな……」
「無理を言ってしまって、申し訳ありませんでした」
「謝る必要などない。私は、それをわかっていて、乗ったのだ」

 流石に、イルファー様もこんなことで婚約を決めることは嫌だったようだ。
 それは、そうだろう。いくら婚約に興味がなくても、これで自分の今後の人生を決めたいと思うはずがない。
 しかし、賭けをしている時点で、イルファー様は中々酔狂だろう。普通なら、賭けもしないはずである。

「それに、面白いものが見えた。私の心も、それで決まったからな……」
「え?」

 そこで、イルファー様は私を見て笑った。
 その少し邪悪な笑みに、私は少し寒気がするのだった。
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