わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

木山楽斗

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 私は、婚約者であるグランダ・オルキンスの元に来ていた。
 グランダ様という人間は、あまり優れた人物ではない。少し思い込みが激しく、色々とうるさい人。それが、彼から受ける印象である。
 だが、別に彼がどのような人間であろうと構わなかった。貴族として、婚約を結び、家同士を結び付ける使命を忠実に果たすだけ。そのように割り切っているからだ。

「君との婚約を、破棄したいんだ」
「はあ……」

 しかし、そんな彼でも、このようなことを言ってくることは予想外だった。
 どうやら、彼は思っていた以上に素っ頓狂な人間だったらしい。
 よく考えてれみれば、私は彼のことをそこまで深く知っている訳でもなかった。表面上しか見ていなかったため、芯の部分がどういう人間なのかまでは理解していなかったのである。
 そのため、このようなとんでもないことを言ってきても、驚くべきではないのかもしれない。彼は、表面上よりも優れた人間ではなかった。そのような評価を下すべきだろう。

「婚約破棄ですか? それは、また急にすごいことを言ってきましたね……」
「君に対して、申し訳ないという気持ちがない訳ではない。でも、僕のこの気持ちは止められないんだ」
「なんだか自分に酔っているみたいですけど、きちんと理由を話して頂けますか?」

 彼が、どうしてそのようなことを言い出したのか、それは知っておきたかった。
 このような馬鹿げた結論に達したまでの道筋は、純粋に興味がある。一体どうしてこのようなことを言い出したのだろうか。

「実は……君の妹であるレルミアが僕は好きなんだ」
「レルミアを?」
「だから、君と別れて、僕は彼女と一緒になる。彼女も、また僕のことが好きみたいだからね……」

 グランダ様の言葉で、私はだんだんと事情が理解できてきた。
 恐らく、あのわがままな妹はまた私のものが欲しくなってしまったのだろう。婚約者のいる私が羨ましい。大方、その程度の理由でこの男に告白したのではないだろうか。
 結果的に、グランダ様は妹に惹かれたようだ。決定的に、見る目がない男である。

「彼女は、とても可愛い。言って悪いが、君よりもだ」
「あのわがままな妹が、ですか?」
「多少わがままなくらいが可愛いのではないか。君といるより、彼女といる方が楽しそうだ……」

 グランダ様の言い分は、まったく理解できなかった。
 あのわがままな妹が可愛いなら、もうそれでいい。二人で仲良く暮らしてくれるなら、私としても満足である。
 恐らく、この婚約破棄は成立するだろう。わがままな妹が、彼を欲しいと言ったのなら、両親はそれを認めるはずだ。
 私としても、この男とこれ以上婚約していたいと思わない。婚約破棄するというなら、喜んで受け入れよう。
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