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両親は、私に対して厳しい教育をしてきた。
それは、私が生まれたフォルフィス家という侯爵家における非常に一般的な教育だった。
貴族として、強くなるための愛の鞭。それが理解できていたため、両親に対して今でも恨みなどの感情は湧いてこない。
実際、私は立派な人間になれたと自負している。だが、それが叶わなかった者がいるのも、また事実だ。
私の弟であるルヴィドは、貴族としての厳しい教育に耐えられなかった。
だから、彼はこの侯爵家から逃げ出したのである。その所在は、今も明らかになっていない。
誰かに一言相談していれば、誰かが気づいていれば、そういう想定を何度しても、起こった事実は変わらなかった。
息子を失った事実は、両親の心を痛めつけて、二人に厳しい教育というものを躊躇わせるようになってしまったのである。
「お姉様、その髪飾りを私にください」
「……どうして、私が」
「私が欲しいのだから、いいではありませんか?」
その結果、誕生してしまったのが、このわがままな妹であるレルミアだ。
彼女は、両親から甘やかされて育ってきた。なんでも自分の思い通りになる。そのような考えが根底にあるとても弱い子に育ってしまったのだ。
「お父様とお母様に言いますよ? そうしたらどうなるかわかっていますよね?」
「……仕方ないわね」
彼女がこうなってしまったことは、仕方ないことである。
息子を失った両親が、同じように厳しくすることなどできるはずがなかった。徹底的に甘やかすことも、その結果妹がどうなるかも、容易に想像できたことである。
それをわかっていながら止められなかった私やお兄様にも、責任の一端はあるだろう。
だからこそ、私はこの妹を正さなければならないのかもしれない。
しかし、それはできなかった。お父様とお母様が、レルミアに厳しくすると怒ってくるのだ。その長い説教を聞いている時間はとても無駄なので、彼女に対して、私は怒りを押さえつけるしかないのである。
「お姉様、どこに行かれるのですか?」
「これから、グランダ様と会うことになっているのよ」
「そうなのですね、いってらっしゃいませ、お姉様」
幼少期の体験というものは、とても大事なものだった。
もし彼女が、もう少しだけきちんとした教育を受けていれば、あのような人間にはならなかっただろう。
そういう意味では、あの妹にも少しだけ同情できる面はある。最も、普段の傍若無人な行いを見ていると、そういう感情は薄れてしまうのだが。
それは、私が生まれたフォルフィス家という侯爵家における非常に一般的な教育だった。
貴族として、強くなるための愛の鞭。それが理解できていたため、両親に対して今でも恨みなどの感情は湧いてこない。
実際、私は立派な人間になれたと自負している。だが、それが叶わなかった者がいるのも、また事実だ。
私の弟であるルヴィドは、貴族としての厳しい教育に耐えられなかった。
だから、彼はこの侯爵家から逃げ出したのである。その所在は、今も明らかになっていない。
誰かに一言相談していれば、誰かが気づいていれば、そういう想定を何度しても、起こった事実は変わらなかった。
息子を失った事実は、両親の心を痛めつけて、二人に厳しい教育というものを躊躇わせるようになってしまったのである。
「お姉様、その髪飾りを私にください」
「……どうして、私が」
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その結果、誕生してしまったのが、このわがままな妹であるレルミアだ。
彼女は、両親から甘やかされて育ってきた。なんでも自分の思い通りになる。そのような考えが根底にあるとても弱い子に育ってしまったのだ。
「お父様とお母様に言いますよ? そうしたらどうなるかわかっていますよね?」
「……仕方ないわね」
彼女がこうなってしまったことは、仕方ないことである。
息子を失った両親が、同じように厳しくすることなどできるはずがなかった。徹底的に甘やかすことも、その結果妹がどうなるかも、容易に想像できたことである。
それをわかっていながら止められなかった私やお兄様にも、責任の一端はあるだろう。
だからこそ、私はこの妹を正さなければならないのかもしれない。
しかし、それはできなかった。お父様とお母様が、レルミアに厳しくすると怒ってくるのだ。その長い説教を聞いている時間はとても無駄なので、彼女に対して、私は怒りを押さえつけるしかないのである。
「お姉様、どこに行かれるのですか?」
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「そうなのですね、いってらっしゃいませ、お姉様」
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もし彼女が、もう少しだけきちんとした教育を受けていれば、あのような人間にはならなかっただろう。
そういう意味では、あの妹にも少しだけ同情できる面はある。最も、普段の傍若無人な行いを見ていると、そういう感情は薄れてしまうのだが。
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