心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗

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 私とロウィードの婚約は、特に問題なく進んでいった。
 ロウィードのルガレン家は、婚約について快く受け入れてくれた。元々、それを望んでいたため、すぐに了承してくれたのだ。
 私は、婚約破棄をして面倒な立場である。だが、それでも侯爵家との繋がりが作れることは利益になると考えたようだ。

 という訳で、私はロウィードと婚約することになった。
 これで、私の計画は終わりだ。彼と婚約することができたので、これまでの苦労も報われたものである。

「それで、俺に何の話だ?」
(何の話だろうな……婚約に関する話か?)
「ええ、実は少し伝えたいことがあるのよ」

 だが、私にはもう一つだけやることがあった。
 それは、ロウィード自身と話し合うことである。
 家同士の話は決着がついた。これで、彼はもう逃げることはできない。
 しかし、気持ちを伝え合うことも大切なことである。状況だけでなく、気持ちの面でも彼を引き止めておきたいからだ。

「伝えたいこと? 婚約に関することか?」
(やっぱり、婚約に関することなのか?)
「ええ、それに関わることよ……」

 そこで、私は自分の声がとても震えていることに気づいた。
 言葉を放つことを、私は躊躇っているのだ。
 これから、私はロウィードに思いを伝えようとしている。その言葉を放つことなど、簡単なことだと思っていた。
 なぜなら、私はこれが成功すると知っているからだ。心の声が聞こえる私にとって、そんなことは簡単にわかることだ。

 だが、それでも、私は言葉を放つことを躊躇っている。
 それ程までに、私は緊張しているのだ。

 心の声が聞こえるのに、ここまで緊張するということは、普通の人はもっと大変だろう。
 私は、またもこの力に感謝していた。厄介な力ではあるが、こういう時にはとてもありがたく感じてしまう。

「えっと……私達は、婚約した訳よね。特に問題がなければ、そのまま結婚する。そういうことよね?」
「あ、ああ……もしかして、不安なのか? 俺は、浮気なんてしないぜ」
(まさか、カルミラ……俺が浮気するとか思っているのか? あいつが、浮気したから……不安なのか?)
「あ、そういうことではないの。あなたに対して、そういう不安は感じていないわ」

 ロウィードは、私のことを心配してくれていた。
 一度、浮気された私が、新しい婚約者にも浮気されるのではないかと不安に思っていると考えているようだ。
 本当に、彼は優しい人である。その優しい彼に対して、私は不安など感じていない。彼なら、私を裏切ることはないと信じているのだ。
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