心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗

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 私は、ロウィードともに馬車に乗っていた。
 ドルビン様へと婚約破棄を突きつけたため、もう帰るのだ。

「えっと……残念だったな?」
(こういう時、なんと言えばいいんだろうな……)
「ええ……」

 ロウィードは、私に対して気まずそうにしていた。
 婚約破棄したため、色々と気を遣おうとしてくれているのだろう。
 私としては、これはとても喜ぶべきことだ。だが、端から見れば、残念なことなのである。

「これから、大変だよな……?」
(婚約破棄した後だ。これから、とても大変なことになるよな……)
「ええ」
「何か俺にできることがあったら、なんでもするからさ。いくらでも頼ってくれよ」
(カルミラが困っているなら助ける。それは、当然のことだ)
「ありがとう、ロウィード」

 ロウィードは、とても優しい人だ。私が困っているなら、必ず手を差し伸べてくれる。
 そういう人だから、私は彼に惹かれているのだ。そんな彼を手に入れるための計画は、順調に進んでいる。
 ドルビン様と婚約破棄したことによって、私は自由の身となった。さらに、婚約破棄した私は、婚約者を中々見つけにくい立場にある。

 普通に考えれば、私はロウィードとは結ばれなかっただろう。伯爵家の彼との婚約は、家の利益はそこまでない。幼い頃に、両親がそう考えていたことはわかっている。
 だが、今の私なら話は別だ。ややこしい立場である私と婚約してもらえるなら、両親も反対しないはずである。

 それに、今回の件も有効に働いてくれるだろう。
 両親は、私のことを娘として愛してくれている。婚約に関しては、貴族らしく割り切っているが、それでも私が幸せになることを願ってくれているのだ。
 だから、今回はロウィードをこんな面倒なことに付き合わせた。協力してくれたという事実は、彼に対する心証を良くしてくれるだろう。

 ロウィード側の事情についても、恐らくは問題ない。
 彼の両親は、元々私とロウィードが結ばれることを期待していた。可能性は限りなく低いが、もしかしたらと思っているのだ。
 だから、私が彼と婚約すると言っても、反対することはないだろう。むしろ、喜んでくれるはずである。

「ふふっ……」
「うん? どうした?」
(なんだ? 急に笑って……)
「なんでもないわ……」

 私は、思わず笑っていた。
 まだ笑ってはいけないと思ったが、自然とこぼれてしまったのだ。
 ここで笑えば、ロウィードはおかしく思うだろう。だが、それがわかっていても、私は歓喜の笑みを止められないのだった。
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