心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗

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 私とロウィードは、ドルビン様とエンリアという子爵令嬢の前に出て行った。

「な、何故……」
(何故、こいつがここに……?)
「そ、そんな……」
(確か、この人はドルビン様の婚約者の……これは……)
「……ドルビン様、これはどういうことですか?」

 抱き合っていた二人は、私達の登場にとても驚いている。当然、彼等はばれているなどまったく思っていなかったはずなので、それは当然の反応だ。
 ただ、私は少し違和感を覚えていた。このエンリアという子爵令嬢の反応が、少し妙なのである。
 彼女の心の声は、確かに驚いていた。だが、焦っているという声色ではないのだ。むしろ、喜んでいる声色なのである。

「ドルビン様、どうしましょう……」
(これは、好機……彼女が、ここに来てくれるなんて、私はなんて恵まれているの……)
「そ、そうだな……」
(まずい……これは、流石にまずいだろう)

 次の言葉によって、私はあることを確信した。
 どうやら、このエンリアという子爵令嬢は、私とドルビン様が破局していることを望んでいるようだ。

 考えてみれば、彼女にとってこの婚約は破棄してもらいたいものに決まっている。その婚約がある限り、彼と結ばれることはないからだ。
 浮気されて婚約破棄された場合、ドルビン様と婚約したいという者などほとんどいないだろう。つまり、彼女は彼を縛りつけることができるのだ。
 だから、彼女にとって、私の来訪はとても嬉しいことなのだろう。これは、とても好都合である。彼女が、それを望んでいるなら、話はとても早く進むはずだ。

「まさか、あなたが噂通り浮気をしているなんて、思っていませんでした……」
「い、いや、違う……」
(何? どこからばれたんだ……?)
「噂……?」
(噂……ふふ、私がばら撒いたのが効いたのかしら?)

 エンリアから聞こえてくる声に、私は少し驚いていた。
 まさか、本当に噂になっているとは思っていなかったからだ。
 人のことはあまり言えないが、このエンリアはかなり愉快な性格をしている。ドルビン様と結ばれるために、手段を選ばない姿勢はかなり凶悪だといえるだろう。
 最も、今の私にとってはその思考はありがたい。きっと、彼女は私が望む方向にドルビン様を誘導してくれるだろう。

「ドルビン様、あなたたとは婚約破棄させてもらいます。浮気するような人は、いくらなんでも許せません」
「うぐっ……」
(くっ……これは、まずい)
「ああ……」
(やった……)

 この場で焦っているのは、ドルビン様とロウィードの二人だけである。
 私とエンリアは、とても幸福な気持ちでいっぱいなのだった。
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