心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗

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 私とロウィードは、馬車でドルビン様が出てくるのを待っていた。
 時間的に、もうすぐ彼とその浮気相手である子爵令嬢のエンリアが出てくるはずなのだ。

「あっ……」
(あれは……)
「ええ、出て来たみたいね……」

 私が聞いていた通り、エンリアという子爵令嬢はドルビン様を見送るために外に出てきた。彼女のことは、あまりよく知らない。ドルビン様の話では、とても穏やかで優しい女性であるようだ。
 正直、私は彼女のことはどうでもいいと思っている。ドルビン様と浮気しているという点を考慮すると、むしろ感謝してもいいくらいかもしれない。
 彼女がドルビン様と浮気しているおかげで、私は最小限のリスクで婚約破棄を成立させられる。それは、とてもありがたいことだ。

「なっ……」
(抱き合っている……これは)
「……どうやら、彼が浮気をしているという話は本当のようね」
「ああ……なんといったらいいか……」
(裏切られた事実を突きつけられるんだから、カルミアは辛いよな……)

 浮気の決定的な瞬間を見て、ロウィードは気まずそうにしていた。
 私が悲しんでいると考えているようだ。もちろん、私はまったく悲しんでなどいない。むしろ、嬉しく思っているくらいだ。

「気にしないで……」
「くうっ……」
(ドルビン……絶対に、許せねえ!)

 しかし、普通に考えると婚約者が浮気していると知ったら、悲しむものだろう。だから、そういう演技をしておくことにした。
 そんな私を見て、ロウィードは怒ってくれている。本当に、彼は優しい人間だ。

「大丈夫だから、今はやるべきことをしましょう。ドルビン様の前に出て行って……婚約破棄を告げさせてもらうわ」
「婚約破棄か……」
(婚約破棄か……当然だけど、大事になってきたな……)

 私の言葉に、ロウィードはかなり動揺していた。
 この状況になって、改めてことの大きさを実感したのだろう。
 そもそも、彼にとってはまだ浮気は確定していたことではなかった。それも関係して、かなり緊張しているのかもしれない。
 一方、私はかなり気楽だった。事前に知っていたし、それで計画を立てたので、上手くいきそうで安心しているのだ。
 という訳で、私達はまったく反対の気持ちなのである。

「それじゃあ、とりあえず行くとするか……」
(気まずいな……だが、行くしかないな)
「ええ……」

 一応、笑う訳にはいかないので、重苦しい空気は保っておく。
 だが、私の内心は割とわくわくである。これで、やっとあのドルビン様から解放されるのだ。その高揚感は、中々気持ちがいいものである。
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