心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗

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 私とロウィードは、馬車の中で待機していた。
 ドルビン様と子爵令嬢であるエンリアは、しばらく屋敷から出てこないはずである。だから、馬車でゆっくりと待っていることにしたのだ。

「本当に、大丈夫なのか?」
(本当に、大丈夫なのか?)
「ええ、問題ないわ。多分、一時間か二時間くらいは、出てこないと思うから……」
「結構、幅広いな……」
(そんなに出てこないのか……)

 ロウィードは、私の言葉に素直に納得していた。
 彼は、中で二人がどうなっているかなどまったく考えていないようである。
 本当に、彼は純粋な人だ。本当に、どう生きてきたら、貴族がここまで純粋になれるのだろうか。

 私が今まで出会った貴族は、何か腹に抱えている人ばかりだった。いい人であろうと、悪い人であろうと、何かしら裏がある人ばかりだったのである。
 だが、彼にはそれがない。余程、環境に恵まれたのだろうか。人を疑ったり、やましいことを考えたり、まったくしないのはとても驚くべきことである。

 いや、それは私が彼の心を読めるから、奇妙に思っているだけなのだろうか。
 考えてみれば、ここまで純粋な人間を見ていると、何かしらの裏があると思うはずだ。それで、警戒して、結果的に何も起こっていない。そういうことなのではないだろうか。

「うん? どうかしたのか?」
(なんだ? 俺を見て……もしかして、顔に何かついているのか?)
「別になんでもないわ」

 私が顔を見ていたため、ロウィードが反応してきた。
 そういえば、彼はこういうことには鋭い。その思考は、とても純粋なものだが、それがわからないとかなり怖いものになる可能性はある。
 もしかして、彼は全て見抜いているのではないか。何か裏があるのではないか。そういう風に思っても、おかしくないような態度である。
 心が読めなければ、彼は疑われるような人間かもしれない。これは、今まで思いつかなかった見解である。

「ふふっ……」
「うん? なんで笑うんだ?」
(何? カルミラはどうしたんだ?)

 彼が他者から見て、裏があるように思えるとわかったのは、私にとって少し嬉しいことだった。
 彼のような純粋で清らかな心を持っている人は、普通なら他者から惹かれやすいはずである。そういう敵が減っているというのは、私にとって嬉しいことだ。

「ロウィードが、かっこよくて見惚れていたのよ」
「え? な、何を言っているんだよ……」
(きゅ、急に褒めるなよ……照れるだろう)

 とりあえず、私はロウィードを一度からかっておいた。
 こういう反応をしてくれるのが楽しいで、何度もこういうことを言ってしまう。これは、私の悪い癖である。
 こんな素直な人を疑わなければならないというのは、悲しいことだ。心が読めてよかったと思えることが、また一つ増えた気がする。
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