心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗

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 私は、ロウィードとともに、とある場所の前まで来ていた。
 ここは、レクント子爵家の屋敷の前である。あそこには、エンリアという令嬢がいる。その令嬢と、ドルビン様が浮気しているのだ。

「本当に、この屋敷にドルビンが来るのか?」
(本当にここなんだろうか? 間違っているとかではないよな?)
「噂でしかないから、もしかしたら来ないかもしれないけど……」
「そうか……そうだよな」
(そうだよな……噂でしかないんだから、わからないよな……)

 ロウィードにはわからないかのように振る舞ったが、当然本当はわかっている。ここにドルビン様が浮気している令嬢がいることは、心の声で聞いているのだ。
 さらには、今日ここを訪れることも聞いている。予定に変更がある可能性はあるが、高確率でドルビン様はここに来るだろう。

「それにしても、俺達なんだか探偵みたいだな……」
(それにしても、俺達なんだか探偵みたいだな……)
「え? まあ、確かにそうかもしれないわね……」

 そこで、ロウィードがそのようなことを呟いていた。
 口に出していることと考えていることが一致しているので、思わず口に出してしまったことなのだろう。
 どうやら、彼はこの状況にわくわくしているようである。確かに、状況を考えると探偵か何かのようだ。
 ロウィードは、少し子供っぽい所がある。考えてみれば、かなり素直なのも子供っぽい一面といえるかもしれない。

「あ、いや、すまない。真面目にやらないと駄目だよな……」
(しまった。俺は、また変なことを……もっと、真面目にやらないと駄目だろう)
「別に気にしていないわよ」
「いや、でも……」
(いや、でも……)
「私は、あなたに協力してもらっている身なのよ? そんな細かいことなんて、気にしようなどとは思わないわ」

 私は、ロウィードに対して笑顔を向けておく。
 彼は、この笑顔に弱い。だから、どういう反応をするかは大体わかっている。

「そ、そうか……そう言ってもらえると、助かるよ」
(本当に、カルミラは優しいな……)

 ロウィードは、私の言葉に笑顔になってくれた。
 彼は、私が笑顔を向けるとこうなるのだ。扱いやすくて助かると思ってしまうのは、私の性格が悪いからだろうか。

「別に、そんなことはないわよ……」
「うん?」
(うん?)
「なんでもないわ」

 私は、ロウィードに聞こえないように呟いていた。
 別に、私はまったく優しくない。彼の心を知っていて、それを利用する悪女なのである。
 こんな悪女にずっと一緒にいたいと思われているロウィードは、もしかしたらとても不幸なのかもしれない。
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