心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗

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「浮気されている?」
(浮気!? なんだって!?)

 ドルビン様のことを相談すると、ロウィードはとても驚いていた。
 小さな頃と比べると、彼の心の中は少しだけ変わっている。口に出した言葉をそのまま考えているという単純明快なものから、口に出した言葉と同じようなことを考えているに変化したのだ。
 最も、それは大きな変化ではない。とても些細な変化だ。彼が素直なのは、小さな頃からまったく変わっていないのである。

「まだ確信はないのよ……ただ、ドルビン様は、最近とある令嬢と関係を持っているという噂を聞いて……」
「噂になるくらいなんだろう? だったら、確定なんじゃないのかよ?」
(噂になるなら、確定だよな? 火のない所に、なんとやらとかいうし……)
「やっぱり、そうなのかしら……」

 ドルビン様がとある令嬢と関係を持っているという噂など、私は聞いたことがない。
 私が聞いたのは、ドルビン様ととある令嬢との生々しい関係だけである。
 それは、彼本人が心の中で思っていたので間違いない。彼は、しっかりと浮気しているのだ。

「とにかく、調査しないと駄目だよな? きっぱりと浮気の現場を押さえて、婚約破棄してやろうぜ」
(これは放っておけない。なんとかして、浮気の証拠を手に入れなければ……)
「ええ……協力してくれる?」
「当り前だろう」
(当たり前だろう)

 ロウィードという人間は、とても乗せやすい人間だ。
 私が少しこういうことを言うだけで、簡単に信じてくれる。時々、彼は貴族として本当に大丈夫なのかと思うくらいに、彼は単純な人間なのだ。
 私にとって、そういう人はとても好ましい。ずっと隣にいて欲しいと思えるような人だ。

 なんというか、私はそこまでドルビン様のことを悪く言える人間ではないだろう。
 彼のように、深い関係という訳ではないが、こうして一人の人物を思っているからだ。

 考えれば考える程、私はドルビン様のような人間である。
 婚約者のことを嫌っていて、他の人に思いを寄せている。私達は、もしかしたら似た者同士なのだろうか。

「ありがとう、ロウィード。やっぱり、あなたは頼りになるわね……」
「い、いや……」
(うっ……可愛いな、こいつ)

 嫌なことを考えてしまったので、私はロウィードに嬉しい言葉をかけてもらうことにした。
 私は、どうやれば彼がどう思っているかを把握している。彼に褒めてもらうためには、どういう表情を作るべきか。それは、長年の経験上わかっているのだ。

 恐らく、私は私が一番嫌いなタイプの人間だろう。
 裏ではまったく異なることを考えている。そういう人間が嫌いなはずなのに、自分はそういう人間になってしまった。それは、少し悲しいことである。

 だが、だからこそ、私はロウィードと一緒にいたかった。
 私にとって、彼は何にも代えがたい存在なのである。
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