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 私は、牢屋の中で静かに過ごしていた。
 私の刑は、すぐに執行されることになるだろう。民衆などに裁いたことを示すために、それ程時間はかけないはずだ。
 いっそのことすぐに追放されていた方が、心は楽だったかもしれない。いつか来るその時まで、私はずっとこの息苦しさの中で暮らさなければならないのだから。

「……失礼します」
「え?」

 そんな私の元に、また誰かが訪ねて来た。
 それは、とても意外なことである。まさか、こんなにも面会者がいるなんて考えてもいないことだった。
 私は、かなり重い罪を犯した罪人である。そんな私を訪ねてくる人なんて、心情的にも体制的にも、それ程多くならないと思っていたのだが。

「お久し振りですね、聖女フラウメさん。といっても、あなたは私のことを覚えていないかもしれませんが……」
「あなたは……」

 現れた人物の顔を見て、私は驚いていた。
 彼のことはよく知っている。ロイガー・ポールスさんというこの国でも有数の学者さんだ。有名な人なので、私ももちろんその顔は覚えている。

「ポールス先生、本当にお久し振りですね。その節は、お世話になりました」
「おや、覚えていてくださったのですね」
「もちろん、忘れていません。あなたから教えていただいた魔法は、あれからも大変役に立っています」
「それなら幸いです。いやはや、私なんかがこの国の力になれたというのは、非常に嬉しいことですな」

 ポールス先生は、その長い髭を撫でながら笑顔を浮かべていた。
 とても優しそうな人だということは、以前会った時も感じていたが、それはまったく変わっていないようだ。

「しかし、どうしてポールス先生がこちらに?」
「もちろん、あなたに会いに来たのです」
「えっと、その理由がわからないんです」
「おっと、そうでしたか……」

 ポールス先生は、一度ゆっくりと周囲を見渡した。
 それに釣られて私も顔を動かしたが、なんだか辺りの様子が変である。
 この牢屋の周りには、見張りの兵士がいたはずだ。どうして、いなくなっているのだろうか。重罪人から見張りが外れるなんて、あり得ないはずである。

「手短にご説明しましょうか。今回の件、あなたは恐らく何も把握してないでしょう」
「……今回の件とは、どの件ですか?」
「アムトゥーリ嬢のことです。彼女は、非常に狡猾で邪悪な女性でした。気づいた時には、手の打ちようがほとんどなくなっている程に、彼女の手腕は見事だった」

 ポールス先生は、淡々とアムトゥーリを称賛した。だが、それはあまり褒めているような感じがしない。その声には、少し怒気すら混ざっているように思える。

「あなたには、申し訳ないことをしたと思っています。結果的に、私はあなたを見捨てました。恨んでもらっても構いません」
「……言っている意味がわかりかねます」
「これが償いになるかはわかりませんが、どうか受け取ってください」
「……っ!」

 次の瞬間、私の頭の中に何かが流れ込んできた。
 魔法によって何かされたということは瞬時に理解できた。だが、この牢屋は魔法を封じることができるはずだ。このようにやり取りができるはずはない。
 しかしながら、事実として魔法を使われたのは確かであるので、そんなことを気にしている場合ではないだろう。今は、私の頭の中に流れ込んできた情報に注目するべきだ。

「これは……」
「さて、そろそろ時間ですので、失礼します。どうか、あなたの未来に救いが待っているように……」
「ポールス先生……」

 ポールス先生は、それ以上何も言わずに私の前から姿を消した。
 彼からもらった情報から考えると、これ以上私も何も言うべきではないのだろう。
 そうすれば、私は助かることができるかもしれない。いや、もらった情報が真実であるなら、私はほぼ確実に助かることができるだろう。
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